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ダイバー社員が作りたかったのはどこでも撮れるタフなカメラ〜進化し続けるタフ性能で撮りたい写真が撮れる喜びを

#創るをツナグ  Vol.2 
防水・耐衝撃のタフカメラ「Toughシリーズ」ができるまで(3)

OM デジタルソリューションズの「Toughシリーズ」は、いつでもどこでも撮れるタフ性能が魅力のコンパクトデジタルカメラ。モノ作りにこめた思いと開発ストーリーを社員が語るシリーズ第 2 弾 防水・耐衝撃のタフカメラ「Toughシリーズ」ができるまででは、商品開発を手掛けた森 一幸さんと設計を担当した高須隆雄さんが初代機種の誕生から現在までの道のりを語ってくれました。

第1話、第2話はこちら

森 一幸さん(左)と高須隆雄さん(右)

話し手:森 一幸( OM デジタルソリューションズ 新事業開発室 アソシエイトエキスパート)/高須隆雄 OM デジタルソリューションズ 研究開発 製品開発部長)
聞き手:柴田 誠(フォトジャーナリスト) 


SWシリーズからToughシリーズになって 次のステップを目指す

− μ770SW、μ1030SW以降はどんな展開を考えたんでしょうか
 
高須:そうですね、μ720SWが目指した世界は「今まで撮れなかった場所で写真が撮れる」っていうものでした。第2章では「撮りたい写真が撮れる喜びを提供しよう」っていう、次のフェーズに行くことを目標にしました。
 
−それを手掛けてきたのが高須さんということなんですね
 
高須:実は私、Toughシリーズの開発がやりたくて転職して来た途中入社なんです。衝撃的だったんですよね、 Toughシリーズでやってることが。
 
−どんなところに衝撃を受けられたんですか?
 
高須:例えば防水の試験なんかでも、水に沈めて圧力をかければいいくらいまではわかっていたんですけど、試験場に行ってみたら金魚水槽があるんですよ。「これは何やっているんですか?」って聞いたら塩水なんですよね。その中にカメラを沈めるんです。しかも世界中の海水の温度やその分布まで調べていて。そこまでやると、確かにいろんなこと起きるんです。 いやあ、そうなんだって感心しました。
 
森:錆びるんですよ。
 
−へー、そんなことが起きちゃうんですか
 
高須:化学反応がいっぱい起きていて、ボディに穴があいたりするといった、予測できないような面白いことがいろいろ起こるんです。ああ、そういうことなんだよねっていう感じでした。これまでの努力が積み重なってきたのがわかって、すごく面白かったことを思い出しました。
 
■10倍ズームかF2.0の大口径レンズにするか究極の選択を迫られる
 
−森さんのお仕事はどう変わりました?
 
当時、私も商品企画に異動したばかりだったので、カメラをどう進化させていくかを考えるタイミングでした。レンズを広角重視のズームにしたり、手ぶれ補正機構ISを入れて、少しずつ基本性能を進化させていきました。次は10倍ズームにして、より遠くを撮れるカメラにしようっていうプランがあったんですけど、どうしても高倍率にするとF値が暗くなってしまう。画質重視とは逆の方向に行っちゃうんです。
 
−画質に関して不満の声があったんですか?
 
森:メーカーとしては当たり前のことなんですけど、お客様からの声をフィードバックして次の開発に活かす「VOC(お客様の声)活動」を当社でもやっています。 Toughシリーズはターゲットユーザーがアウトドアで使う人が多かったりするので、結構いろんな声が上がってくるんです。
 
−どんな声が多かったんでしょう
 
森:画質の改善を求める声が非常に多かった。「タフ性能には満足なんだけど、ぶっちゃけ絵が良くない」っていう声がありました。お客さんが求めるタフって基本の性能であって、当たり前の画質があってのタフなんじゃないかなっていうふうに感じました。
 
高須: ちょっと技術的な話になるんですけど、高倍率にしてF値(レンズの明るさ)が暗くなるよりも、大口径のF2.0っていうところに新しい価値を持って作れないかっていうことになったんです。その方向で開発が進められたのが Tough TG-1(2012年 6月)から始まるToughの1桁シリーズなんです。

Tough TG-1

−10倍ズームかF2.0の大口径かの選択になったわけですね
 
森:当時のトレンドは高倍率だったんです。でも μ TOUGH-3000(2010年2月発売)で撮った画像を見ると、ちょっと暗いところで撮るとボケちゃったり、イルカを撮っても動きについていけなくてブレた絵になっちゃう。プロテクターに入れた他のカメラで撮った写真があるんですけど、「撮りたいのってこういう絵だよね」という話になっていたんです。
 
高須:営業的には「Tough が10倍に進化しました!」ってスペックで訴える方が伝わりやすいです。ところが「画質がいい」っていうは訴求が難しい。「他社の5倍に対して、うちは10倍」っていうのが価値があるという派と、「実際お客さんが求めているのはそっちじゃないよ」っていう派で二分されちゃいました。
 
森:社内でも10倍の方がいいんじゃないか、高倍率の方がいいんじゃないかっていう意見と、いやそっちじゃないよねっていう意見がありました。10倍だとそんなに倍率高くないよねという声もあったりね。最終的に、高倍率にするとサイズも大きくなっちゃうので、一度原点に戻って考え直そうということになりました。
 
−そんなバトルが繰り広げられていたとは
 
森:正直な話、レンズ開放値F2.0って言ってもよくわからない。でもさっき言ったように、「撮りたい写真ってなんだっけ?」ってなったときに、Toughのブランドってものすごく意味があるんですよ。「暗いところで撮れる、どこでも撮れる」というのをこれまでやってきたわけだし、「撮影領域をもっと広げよう」っていうのがコンセプトなわけですからね。
 
高須:10倍は遠くのものを大きく撮れるんだけど、我々開発陣としては「被写体に近づいて撮ろう」っていう方を選択したいって宣言をしたんです。そうしたら当然ですけど、Toughシリーズの売りの部分を踏まえつつ、売上も確保するようにっていうことになりました。
 
−開発陣は大口径推しだったということですね
 
高須:ですが社内でも表向きには10倍ズームのモノを設計していました。
 
森:10倍ズームと明るいレンズの両方を設計していたんです。
 
−え、それ本当ですか?
 
森:ずっと10倍ズームで話が進んでいたのに、開発陣が「それは違うよね」って言ってひっくり返しちゃった。裏でって言ったら変だけど、両方検討してくれていたんですよ。

高須:そうなんです。だからあの頃は2倍の仕事をこなしていました、一時期だけでしたけど。
 
−それはかなり大変だったでしょう
 
高須:今じゃブラックだって言われるかもしれないですけど、そこには「思っている方でやりたい」っていう想いがいっぱい詰まっていたんです。開発陣としては先々の未来、撮りたいところに撮りに行けるのは明るいレンズの方だろうっていう信念を持っていました。

森:どっちがいいのかを正直迷いながら両方の開発を見ていました。でも言っているうちにだんだん固まっていって、最終的には明るいレンズの方に行くんです。だけど、実は10倍ズームでも明るいレンズでも、手ぶれ補正機構を入れるとレンズが大きくなるのは変わりがないんですよ。
 
−森さんにもいろいろな葛藤があったんですね。
 
森:余談ですけど、 Tough TG-1ではレンズを横向きに入れてあります。
 
高須:折り曲げ式の光学系ではあるんですけど、これまで縦に入っていた光学系の向きを逆にして入れてあります。またカメラの性能も上がってきたので、電池も容量を増やした新しいものを採用するなどして、レイアウトを一新しました。
 
−いよいよ第二章のスタートが切られた感じですね
 
森:ほんとにゼロから見直すっていう感じでした。レンズが大きくなってもやはりボディは小さくしなきゃいけない。全体の剛性を上げながら、いろんなところに入ってた衝撃吸収材も全部見直そうと。もう、意気込みだけで始めちゃったみたいな感じでした。
 
森:ところが問題も出てきます。電気部品って、性能が上がっていくと熱を持つようになるんですよ。そうすると、低温下で温度差が出ると内部で結露しちゃう。外側じゃなくてレンズの内側が曇っちゃうと、もうお手上げです。どうにもならない。撮影レンズの前にあるガラスの曇り対策には、保護ガラスを二重窓にして対処しました。この 小さなボディの中にガラスが2枚入ってるんだから、設計的にはすごい頑張ったよね。

カメラをシステムで考えてアクセサリーも充実させていく

高須:今回、倍率を犠牲にしちゃったようなところがあったので、カメラなんだからシステムにしようっていうのをそのとき考えました。最初に考えたのがテレコンバーターです。要は、10倍ズームにできないんだったら、後付けで10倍にすればいいじゃないかっていう発想です。我々は、一眼カメラのメーカーでもあるので、レンズを作ればいいんだよっていう。

TG-1に装着した2種類の防水コンバージョンレンズ。フィッシュアイコンバーターレンズ FCON-T01(左)とテレコンバーターレンズ TCON-T01(右)。

森:もともと接写が可能なレンズなんですが、被写体に寄って撮るとどうしてもレンズ前が暗くなっちゃう。でも外付けライトを使わずに、このカメラだけで完結させたい。カメラにはLEDライトとフラッシュが搭載されているので、それを利用できるフラッシュ用のディフューザーみたいなアクセサリーも用意することにしました。開発には内視鏡の開発部隊にも相談したんですよ。

フラッシュディフューザー FD-1を装着したTG-6

−コンパクトデジカメをシステムカメラにしちゃおうっていう発想ですね
 
森:Toughの世界観を作りあげちゃおうということで、アクセサリーもTough シリーズで使えるように統一を図りました。

レンズを囲むように Tough シリーズ共通のバヨネットマウントが設けられている。コンバーターアダプターCLA-T01を装着することで、コンバージョンレンズやレンズバリア、プロテクトフィルターなどを取り付けることができる。

−どんどん話が膨らんでいきますね
 
森:グローブをした状態で操作できなきゃっていうのも、この頃からでしたね。そして世の中的には動画に対する要求がだんだん高くなっていた時期でもあったので、フルHDにしてステレオマイクを搭載しました。
 
−マイクの穴を開けると色々と不具合が出そうな気がしますね
 
高須:いや、大変でした。しかも全部が新しくなったことで、今まで積み重ねて来たノウハウが役に立たなくなったことが一番辛かった。GPSユニットもこの形で積むのは初めて。突き出ているのはノウハウがないってことで、最後まで意見が割れに割れました。
 
−やはり商品を世に出すっていうのは大変なことなんですね。
 
森:量産化も本当に大変でした。それこそ諦めようかというくらいに。本当に家に帰れなくなりましたから。

高須:レイアウトが変わっただけじゃなくて、中に入っている構成がまるっきり違うので、新しい部品を立ち上げるところからでした。また、ボタン1つにしても単純にかっこいいからそこにあるんじゃなくて、ここにあったら衝撃が分散されるってことで配置されていたりするわけです。1個1個のパーツに存在理由がある。TG-1は、そうした理由をもう1回定義し直したみたいな商品でした。
 
−ものすごく細かいところまで考えられているんですね
 
高須:TG-1を出してから、TG-2(2013年2月発売)、TG-3(2014年6月発売)、そして現在のTG-6(2019年7月発売)まで進化していくわけですけど、この折れ曲がり系のレンズ設計をやっていた頃から、接写に強い光学系を考えてくれていたんです、TG-1のレンズも全域で1cmまで寄れるものになっています。TG-2、TG-3ではさらにレンズの動かし方とか、低温で動く、動かないみたいなところもちゃんと考えてくれました。
 
森:元々、2人くらいからスタートしたプロジェクトなんですけど、紙の上で考えているよりもものを作って、写真を撮ってみせると、結構インパクトがあるんです。その方が伝わりやすいし、仲間も増やしやすいっていうのをものすごく感じました。なので試作機を作って、どんどん動いて、 壁になることをどんどん取っ払って商品化していくということで進めてきました。

μ720SWの発売から17年が経ち、毎年のようにモデルチェンジを繰り返してきましたが、オリンパスからOMデジタルソリューションズに変わっても商品自体は変わらず進化しています。 型番は変わってもブランドとしてずっと受け継がれているものがあるっていうのは、やはり嬉しいですね。

Tough シリーズのアクセサリーは、少しずつだが確実に充実していっている。まだまだ発展途上だ。

−本日はありがとうございました。これからのToughシリーズの進化も楽しみにしています。



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