そのひとの物語が醸し出されるような、おしゃべりな写真へ – 田中 仁
”写真でまちを元気に!”をモットーに活動している「長浜ローカルフォト」メンバーのミカミユキです。7回目となる今回は、長浜ローカルフォトメンバーのなかでもカメラの腕前とユーモアを兼ね揃えた長浜のボヨ〜ンな紳士・田中仁さんをご紹介します!
◆カメラとの出合い。ローカルフォト参加のきっかけ
私は長浜ローカルフォトアカデミー2期生からスタートでした。なので、1期生で確かなカメラの腕前をもち、持ち前のユーモアで被写体の方の緊張をほぐし、シャッターをきる。カメラマンとして信頼感と安心感のある仁さんの撮影スタイルは、昔から確立されているものだと思っていました。
でも仁さんに実際話を聞いてみると、『ポートレート撮影は苦手で、他者を写り良く撮影することや、理想の写り方をこちらから図々しく言うのもなんだか烏滸がましいなと思っていて。長浜ローカルフォトアカデミーに参加する前までは、ひとを撮ることは恥ずかしくて全然無かった』と言います。
仁さんのカメラとの出合いは、大学卒業後、広告デザインの仕事をはじめた頃。当時はまだフィルムカメラの時代で、会社のカメラを使って広告用写真などを撮っておられました。その経験を経て、現在勤めている職場へ転職が決まり、生まれ育った長浜へ戻ります。
転職して数年後、自身で購入した最初のデジタルカメラが、OLYMPUS PEN の初期モデルであるOLYMPUS PEN E-P1。最初は機械いじりが好きで、ロシア製の古いカメラを直して撮るのが趣味みたいになっていたけれど、クラシックなデザインが魅力なE-P1を手にしてからは撮影にどハマリ!びわ湖や風景をどんどん撮り始めます。
カメラを始めた初期の写真は、もともと大学で油画をされていたこともあり、既に頭の中で仕上げた構図を、現地で絵画を完成させるようにシャッターを切っていたそうです。そのときのポスターやチラシの写真が、長浜市の写真部メンバーで黒壁近辺を撮り歩きしていた川瀬智久さんの目にとまり、長浜ローカルフォトアカデミーへ声をかけてもらったことが参加のきっかけとなりました。
◆ローカルフォトで気がついたまちの魅力
『木之本のまちに暮らしているひとのところへ行って、元気なところを撮りましょう!』と仁さんがその時、撮影されたこちらの写真が、2018年に開催した長浜ローカルフォトアカデミー写真展のフライヤーに採用されました。
なかに写るのは、木之本で三味線の弦を生産されている丸三ハシモトの橋本さん。張り詰めた黄色の弦を見つめる、笑顔だけでは伝わらない真剣な職人の眼差しが印象的な1枚です。
『地元が生糸の生産地であり、それを使い生業にしている職人がいる。カメラ片手にまちを歩くことで、知らなかったまちの素晴らしいひととの繋がりに気づくことができた。表面的にカッコイイ写真でなく、すごい絶景の風景でもなく、見えないその人の持つ生きる美しさまでが見える写真にしなくてはと思った。こりゃあ恥ずかしいとか言ってられんなぁと!』とそのことに気づいてから、写真の撮り方が変わったと話してくれました。
◆大切なのは、その人の物語が写真のなかにあること
知らない地元を発見できたり、ひとと交流できるのならば、ちょっとドキドキだけどやってみよう!と、積極的に近所のひとから撮影しに行くようになった仁さん。すると、近所と思っていた地元が意外と未開の地で、通り過ぎて知らなかったお店もあることに気づいたそうです。
『駅前に昔からある中島屋食堂さんは、長浜の生き字引のようなお店。店内には、現在の観光施設ができる以前の観光情報や往年のブロマイドが壁にべたべた貼ってある。お店に伺ったことで写真以上に長浜歴史や良い情報が得られた体験がよかった。』
まちのひとを撮り始めたことで、ちょっとドキドキな昔からあるカメラ屋さんや老舗の食堂を撮らせてもらうようになり、交流の仕方も勉強になったと振り返っておられました。
わたしよりもうんとカメラ歴も長く、技術も腕前もある仁さんですが、ローカルフォトでは初挑戦の撮影が多かったことには驚きました。
◆地域の幸福をお裾分けしてもらう気持ちで撮る
仁さんに長浜ローカルフォトで印象的だった撮影を伺うと、まず長浜曳山まつりがあがりました。曳山祭とは、豊臣秀吉の時代から続く盛大なまつり。地元の子供たちが奉納する子ども歌舞伎は毎年見る人に感動をあたえてくれます。
『今までも曳山祭の“ハレ”の写真も撮っていたけど、祭の裏側である子ども歌舞伎の稽古風景の撮影は、目の前にある子どもたちから自分の幼少期のことを思い起こされて、とても濃密だった。撮影を通して、地域の幸福やひとの魅力みたなものを、少しお裾分けしてもらったような豊かな気持ちになりました。』と仁さんは語ります。
続いて印象的だったのが、2022年のびわ湖の漁師さんの暮らしをカメラで追いかけた尾上フォトプロジェクト。
『何気なく撮ってたびわ湖の風景のなかに、生業として働いている方々の存在を知れたことは、どこか喜びのようなものも感じられた。景色だけじゃない、びわ湖の暮らし部分を撮影し、漁師さんを撮影できたことで、やっとびわ湖のほとりの住人になれた気がした。』
取材させていただいた漁師さんから、漁獲高や後継者問題などの今後危惧されているお話しをしてもらえたのも、ローカルフォトの活動だからこそ実現できた。と改めて撮影時のことを思い返されていました。
『琵琶湖テーマにした撮影は続くと良いなと思っていて。次に撮影するなら、もう少し北上しても良いな。たとえば管浦のような代々伝わる伝統文化とか、手長エビやイワトコナマズなど珍しいお魚を撮るとか、釣りや水浴び・・・!琵琶湖で継承される豊かな生活を撮影してみたいな。』と笑顔で話す仁さんから、ローカルフォトの大切さを自分なりに少しずつ積み上げてこられたんだなと感じました。
◆ローカルフォトは、まちの宝物になる
『地元の良さをそのまま発信できる環境を築けたおかげで、最初は恥ずかしいと言っていた方々も出来上がりを見て喜んでくれたり、さらに長浜だけでなくて、同じような活動している団体との繋がりが持てたり、いろんな方と共有できることがとてもありがたい。』と最後に仁さんが語ってくれました。
地域に溶け込み、暮らしに共感でき、撮る側、撮られる側のコミュニケーションがしっかり取れていないと成り立たないのがローカルフォト。そうやって汲み取って出来上がった写真は、個人の作品にとどまらず、まちの宝物になる。自分たちのまちを誇りに思うきっかけづくりとして、あらゆる地域で育てていくべき大切な活動だと思います。
今回改めて仁さんのお話を聞きましたが、商用写真から趣味の風景写真、ローカルフォトまで、これまでからたくさん撮影してきた仁さんからこそ、カメラの持つ可能性を人一倍感じておられているのだと感じました。絵画のような静かな写真から、ファインダー越しに映る方のストーリーが醸し出されるおしゃべりな写真へ。ローカルフォトの活動を通して、カメラがコミュニケーションツールとして扱えるようになった仁さんの今後の写真がますます楽しみです!
文:ミカミユキ
写真:田中 仁、ミカミユキ
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