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鳥たちに優しい社会 #02 〜鳥との距離感〜

 鳥に近づき、綺麗に写真を撮りたい。でも、なかなか上手に近づけない…。あるいは、どこまで近づいていいのかわからない…。初心者のみならず、ずっと付き纏う課題です。
 野鳥撮影を続けてきて痛感するのは、いくら超望遠レンズを使用しても、鳥たちはいつも遠くにいて、望むような大きさで撮影させてくれる機会は極めて限られる、ということです。言い換えれば、「このくらいの距離で撮れたらなぁ!」と我々が考える距離というのは、体感的に、鳥にとっての安心できる距離よりも短いことが多い気がします。

 当然ながら、鳥が安心できる適切な距離というのは、種類や数、場所、環境、時期、行動そのほか様々な要因によって都度変わり、決して一定ではありません。撮影者の振る舞いにも左右され、工夫や気配り次第で距離を縮められることもあり、そこに奥深さがあるわけですが、それと同時に、十分な距離であると思えても、警戒させてしまったり、飛び立たせてしまう失敗も常に起こりうると言えます。飛び立たせてしまえば、概して後ろ姿・逃げ姿しか写すことはできず、続くはずだった行動の観察・撮影もできません。鳥にかけるストレスの観点からも、極力避けたいものです。

講座中に見つけたダイサギ。そっと隙間から覗き込んだが、首を上げ、警戒の仕草をさせてしまった。こうなるとやがて飛び去ってしまうだけなので、警戒が解く距離までそっと離れた。採餌をやめさせてしまった、すなわち「自然な行動を妨げてしまった」反省のシーン。

葦に止まり、地上の虫を探すモズ。こちらを気にせず、採餌に集中している。このあとしっかりとケラを捕らえた。

 撮影距離を決める時、「撮影によって鳥の行動を変えてしまっていないか」という視点は、ひとつの指標になり得ます。例えば、その鳥を見つけた時に囀っていたのなら、囀りをやめない距離。採餌をしていたのなら、それをやめない距離。休息をしていたのなら、起きて周囲の警戒を始めない距離が目安です。
(ただし、コウノトリのように、明確なガイドラインが引かれている例外はあります。参考:「コウノトリ放鳥情報:野田市」)

 普段、特に初心者の方にほど、長いレンズを持つことをお勧めしているのは、鳥との距離を長めにとることで、鳥を驚かせない可能性を高めて欲しいからです。その結果、鳥たちの安心した姿や、様々な行動パターンをじっくりと観察することができれば、無闇な接近をしないメリットを体得することができるでしょう。

冬の草原で出会ったベニマシコ。2倍のテレコンバーターを使い、無闇な接近を避けたことで、種子を食べる様子をじっくりと観察できた。

 講座などの機会に、「見つけた鳥がカメラを構えている間に逃げてしまう」という相談を受けることが多々あります。そのようなケースが続くのであれば、鳥に気付く、あるいは撮影を開始する距離が近すぎることを疑いましょう。
 視野が広く、傾向性に優れ、電池の心配もなく、両眼視できる双眼鏡は鳥を見つけるのに最適な観察道具です。双眼鏡を持つことを強く勧める理由の一つはここにあって、遠目にも鳥の姿を見つけることが、慎重なアプローチの基本になります。鳥の様子を見ながらゆっくりした動作で近づいていけば、無闇に飛び立たせてしまう可能性を減らせるだけでなく、背景の位置や光線の向きを考えながらアプローチを考えることもできます。

周囲の環境に溶け込むのが得意なタシギ。気づかず近づくと飛んで逃げてしまうが、双眼鏡を活用して見つけることができたので、先回りして草陰に隠れ、そっと撮影できた。

 撮影機材の軽量化で、観察機材との併用も容易になった昨今。優れた観察機材を活用して、「撮れる」距離にいる鳥だけでなく、やや離れた場所にいるいわば「写程圏外」の鳥たちにも気を配って欲しいのです。水面や地形などの関係で、どうしても近づけない距離にいる鳥に出会うことも多々ありますが、そのような時にこそ、人の脅威がない時に見せる鳥たちのリラックス姿勢をよく観察しておくことをおすすめします。

 その積み重ねで「鳥が安心できる距離感」が身につけば、結果的に将来的な撮影チャンスを増やせるかもしれません。また、すぐに逃げられてしまう場合に比べ、1回1回の出会いから生まれる経験値もグーンと上がります。近距離から撮られた高解像の写真もよいですが、せっかく野に暮らす鳥たちを相手にするのですから、自然な行動の観察から見えた生き生きとしたシーンを写すことにも価値を見つけていきましょう。

文・写真:菅原貴徳

菅原貴徳:Field Photo Gallery


#omsystem #鳥のきもち #菅原貴徳 #野鳥

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