カメラを持ち、一歩踏み込むことで広がったいとしい世界 - 竹中昌代
こんにちは!”写真でまちを元気に!”をモットーに活動している、「長浜ローカルフォト」のメンバーの居川美保です。メンバーの紹介をさせてもらっている、第4回目となる今回は、長浜ローカルフォトの副代表を務める「竹中昌代さん」をご紹介したいと思います。
何を隠そう、私も昌代さんの写真が大好きなひとりです。いきいきとした被写体の表情や彼女が切りとる暮らしの写真はどれもあたたく、心が和むのです。
「長浜ローカルフォト」は、人生の転機!?
昌代さんのカメラとの出会いは、2016年に始まった「長浜ローカルフォトアカデミー」からでした。それまでカメラをほとんど扱ったことはなく、こどもの運動会の時に撮るくらいだったそう。
園で一緒にPTAをしていた友人に「こんなのがあるけど入ってみないか?」と誘われ、「写真教室で写真を教えてもらえるなら」と軽い気持ちで参加したのがきっかけでした。
長浜ローカルフォトアカデミーで展開されたのは、昌代さんが期待していた写真の撮り方や構図を学ぶというよりは、なにかもっと深いところで、なぜ私達が撮るのか、どういう思いで撮るのかということに焦点を当てられたものでした。いささか騙された感は否めないものの、実際にカメラを手に取り、いよいよ地元の方やお店、暮らしを撮り歩くことに。「人を撮るということはコミュニケーションをとらなければならないんだけど、最初はそれが苦手だった。作業をされている人をこっそり撮るのではなく、面と向かって、お話をして、撮らせてもらいますねっていうのが、慣れるまではしんどかったな」と6年前を振り返ります。
長浜ローカルフォトアカデミー1期目は「撮らなあかん」と無我夢中。
「でも、撮らせてもらったあとに『ありがとう!』と言ってもらえたことが嬉しかったなぁ」と、目を細める昌代さん。
2期目に入る頃には、少し心境の変化がありました。「せっかく木之本にいるんだし、面白い人もたくさんいる。木之本のまちや木之本の人たちを撮ってみたい!」と思うように。
450余年の歴史を持つ古酒蔵「冨田酒造」におもむき、自ら撮影を依頼します。
「カメラがあるから踏み込めた。ただ撮るだけじゃなく、『写真で表現したい』というスイッチが入ったのはこの頃だと思う」と振り返ります。
創業489余年。日本で5番目に古い歴史のある山路酒造。この写真は「木之本の冬を表現したい」という思いから生まれました。しかし、当時はこどもも幼く、撮りに行けるタイミングも難しかったそうです。夕方に外出ができ、なおかつ夕方からの雪予報。しんしんと雪が降っていて、お忙しい女将がカウンターにいらっしゃる時間が、ついに重なりました!
一方通行のコミュニケーションから双方向のコミュニケーションが取れるようになり、3期目には、気がつけば人とのつながりがどんどん広がっていました。
「木之本に暮らし始めた当初は近所の人と会うくらい、こどものお母さんと関わるくらいで、まちのことも知らなかった」
「ただ歩いているだけでは気づけなかったことが、カメラを持つことで目にとまったり、新たな発見があった」
「まちの見え方が変わり、自分も撮っていて地元に愛着が湧き誇りを持てるようになった」と、昌代さん。
これは、常々、私も感じていることです。不思議ですが、以前よりも、地元がうつくしく、いとおしく目に映るようになりました。
「ローカルフォトは私にとって人生の転機、ターニングポイント」
「カメラを持つことでずいぶんと心が豊かになった」
『三歩先の未来を想像して___』という長浜ローカルフォトアカデミーの講師だった写真家MOTOKOさんの教え。
この言葉をいつも頭に浮かべながら“この光景がいつまでも続きますように”とシャッターを切っていったそうです。
「ありがたいことに、カメラのおかげでたくさんのご縁があり、仕事としての撮影依頼もいただけるようになった。6年前の私には、そこは全く想像すらできなかったこと」と笑います。
糸取りとの出会い
長浜市木之本町にある大音地区では、平安時代の頃から養蚕業や製糸業が盛んであったとされています。昭和初期に全盛を迎え、戦後化学繊維の普及により衰退し、現在は明治期から続く4代目の佃さんの工房がひとつ残るだけです。
昌代さんは佃さんらの糸取りを5年くらい前から撮らせてもらっていたそうです。
「木之本で続けることに意味がある」「自分たちの仕事に誇りをもっている______」
佃さんの言葉に深く感銘を受けたという昌代さん。佃さんたちをレンズで覗くと「格好いい!」の言葉につきます。
「ずっと糸取りを撮らせてもらっていたので、暑い時期に汗だくになりながらの作業に加え、お蚕さんが浸かっているお湯も熱いし、絶対に大変なことだとはわかっていた」
佃さんに「やってみるか!糸とってみるか!」と言われても、実際にできるかどうか不安も大きかったようです。
6月のはじめからお蚕さんの世話など、糸取り以外の仕事も一通りさせてもらい、「ヨシ!できるんやったらやってみる!」と、いよいよ覚悟を決めたそうです。
実際にやってみると、予想通り、手水はあるが熱いし、暑い。丸2日間、佃さんが猛特訓をしてくれたから、なんとかみんなと一斉にスタートすることができたそうです。
「撮っている時と違って、実際にやってみると伝統を受け継ぐことの尊さ、大変だけど価値があると、改めて感じた。すごいことだなと身をもって実感できた。これは撮ってるだけじゃわからなかった」
撮る側から、暑いなか汗を垂らし、熱湯に手をつけて繭の糸をひたすら手繰り寄せるという根気のいる作業を最後まで成し遂げた昌代さん。その言葉はとても重く感じました。そして、ずっと見ていられるような、あの美しい糸取りの指さばきをしていたのかと思うと、尊ばずにはいられません!
自分が撮って満足するだけじゃない、撮らせてもらった人に喜んでもらえる写真を
2019年度に長浜ローカルフォトで、余呉町の菅並地区にフォーカスして取材・撮影を行ったときのことです。地域の方に撮影をお願いしてもなかなか撮らせてもらえず、時には心折れる経験もありました。
撮られることに慣れておられない人ばかりだから、抵抗があって当たり前ですね。畑仕事をされていた女性もそうでした。最初にメンバーと一緒に撮らせてくださいとお願いしても「恥ずかしいから」と断られてしまいます。
昌代さんは何度も何度も菅並に足を運んで、挨拶や会話を重ねていきました。
そのうち女性は「田んぼが好き。畑が好き。百姓の仕事が好きなんや」と、少しずつご自身の話しをしてくだるようになりました。そして何度目の訪問だったでしょう。「頑張っておられる今のこの姿を撮らせてもらえませんか?」と問うと、「こんな汚い格好だけど」と、なんと撮らせてもらうことができたのです!
写真を額装してその方にお渡しすると「ありがとう」と喜んでもらうことができました。また後日お会いする機会があり、その女性から昌代さんに一言、「私が1番好きな、楽しい百姓。その写真を撮ってもらえたのが嬉しくて、毎日眺めているんや」と。なんとも撮影者にとっては冥利に尽きるお言葉をいただき、「まさかまさか、そんなに喜んでいただいていたなんて」と胸を熱くするのでした。昌代さん、凄いな!喜んでもらえて本当に良かったね。
長浜ローカルフォトのイベントでの、写真家 浅田政志さんとの出会いも大きく、浅田さんの考えに、とても共感したといいます。
「自分が撮って満足するだけじゃない。撮らせてもらうことに感謝して、撮らせてもらった人に喜んでもらえる写真。それが私の喜びなんだな」と気づくことができました。
「長浜ローカルフォトアカデミーで、MOTOKOさんや堀越さんから私達が撮る意味を叩き込まれてきたことで、カメラを向ける方々と対話を重ね、よりその人のことを知ることができる。尊敬・感謝の気持ちをもって撮るようになった」
「これからは、その人の生き様を写真で表現したい、できるといいな______ 」と語ります。
これまでも、菅並の女性との関わりのように対話を繰り返しながら、着実に信頼関係を築いていて、昌代さんだけにしか見せない一瞬の表情を、既にたくさん撮っていると思います。
写真は自分を映し出す鏡みたいなものでもあり、もしかしたら昌代さんの生き様もそこにあらわれているかもしれないですね。
昌代さんが切りとる、これからの写真がとても楽しみです!
最後に。私も長浜ローカルフォトに入らなかったら知り合うこともなかった方々がたくさんいらっしゃいます。地元でこんな素晴らしい伝統やものづくり、魅力的な人たち、美味しいもの、暮らしがあることも知りませんでした。まだまだ足元には宝物がいっぱい、まだまだ知らないことがいっぱいです。楽しみですね。是非、長浜にお越しいただき、一緒に長浜を楽しんでもらえたらなと思います。そして、今回のことで益々昌代さんのファンになりました。素敵な機会をいただきありがとうございました!
文:居川美保
写真:竹中昌代、川瀬智久、居川美保
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