むらいさち写真展「EARTH COLORS」インタビュー
自然の中で出会った感動を独自の色で表現し、世界観を作り出すむらいさちさん。OM SYSTEM GALLERYでの初個展を開催するため、各地を駆け巡りながら半年間で作品を撮り下ろしたむらいさんに、展示作品と作品制作までの道のりについて伺いました。
撮り下ろしで挑んだ初めての展覧会
――今回の作品はすべて撮り下ろしなんですね。
いつか個展をしたいと思っていたOM SYSTEM GALLERYから展示のお話を頂いたのが半年前。最初は撮りためてあった作品に新作を足して展示しようと思っていたのですが、過去の作品を見返すと今の自分との温度差があって。今の自分が一番進化しているし、一番いい写真が撮れる。最新のカメラOM-1で撮り下ろしたいという気持ちがフツフツと湧いてきたんです。
――短い期間の中でのチャレンジでしたね。
はい、結構辛くて…(笑)。「EARTH COLORS」というタイトル通り、僕は色で表現することが好きなんです。でも今回、撮影期間が冬から春までだったので、雪山に行って「真っ白だなあ、色がないなあ」と茫然としていました。本来僕は「海と夏とお花の人」だから(笑)。春から夏のターンならいくらでも撮れるのですが。でもそういう何かを課せられた状況でチャレンジしていくことは好きですね。
――振り返ってみて、どんな半年間でしたか?
今までの経験上、こういうものは撮れるだろうという予測はしていましたが、当然、自然写真は思い通りにいかないもの。そういった意味では本当に苦しいというか、辛い時期もありました。でもこの半年は、常にこの展示空間をイメージして生きてきたと言っても過言ではないくらい集中して取り組んできたので、1枚1枚、全部見てほしい作品ができました。
マイナス27℃のなか撮影したサンピラー
――海の中や山の写真、流氷や桜もあってバリエーション豊かですが、特に今回撮りたかった写真はありますか?
このサンピラーの写真です。人生で初めて見ました。ずっと見たかったのですが見られなくて。北海道の某所で撮影したのですが、すぐ見られなかったので道東の端にある納沙布岬まで移動したんです。そうしたら、翌々日狙っていた場所の天気予報が、サンピラーが出る条件に合った、マイナス27℃の快晴と出ていて…。これはもう見に行くしかないと思って、7時間かけてまた戻って撮りました。
――大変でしたね。
この写真展がなければそこまで頑張らなかったかもしれません。写真を見て喜んでくれたり、笑顔になってくれるみんなの顔を思い浮かべたりして、「絶対撮ってやる」という熱い思いもありました。OM SYSTEM GALLERYという看板を背負った展覧会だったので、妥協だけはしたくなかったんです。
――他にも、お気に入りの作品を教えてください。
納沙布岬で撮ったこの写真も好きです。海の先は北方領土。その間に何かアクセントが欲しいなと思っていたら、おそらく漁船だと思うのですが、かわいい船がやって来ました。まさか氷が張っているところに船が来るとは思わなかったので、すごく嬉しかったです。SNSにアップするなら船をもっと大きく撮らないと認識しづらいけれど、大きくプリントして展示すればみんな存在に気づいてくれる。インスタ映えはしないですけど、展示のために撮った写真ですね。
――この桜と星の写真は幻想的な写真ですね
これは夜中の3時頃です。手前は麦畑。月が出ているうえに逆光で明るすぎて星を撮るにはあまりよくない状況だったのですが、月焼けも出て不思議な写真が撮れました。展示に間に合わせるには4月中旬の撮影までがギリギリだったのですが、今年は桜が咲くのが早くてありがたかったです。余裕ができました。みんなは早くて予定がくるって困っていましたけど、僕だけは助かりました(笑)。
陸上の数倍は難しい水中撮影
――展示されている水中写真の機材はいつも使っているものですか?
ここまでやる人はいないですけどね。OM-1をハウジングに入れて、水中ライトやストロボ、カラーフィルターなどをセットしています。本当に数日前までこれを持って潜っていました。水中でレンズ交換はできないので、ワイドとマクロのレンズをセットしたものを持っていくんです。本当はたくさん機材を持っていきたいけどそうはいかないので。
――これを2台持って潜るのは大変そうですね。
水中での撮影は機材も限られるし、潜っている時間も限られるから、効率よく進めて行かないと全然撮れません。経験や知識、機材を使って、撮影確率を少しでも上げるような撮影で、陸上の数倍は難しいと思います。水中と陸の写真は同じように並べられて同じ評価を受けるけど、もうちょっと水中写真が大切に扱われるといいなと思いますね。でも、だからこそうまくいったときの感動は陸の何倍もある。思わず「撮れた!」ってニヤニヤしてしまいます(笑)。
コロナ禍の悔しさをモチベーションに
――展示構成はどのように考えられましたか?
いつもはデザイナーさんにお任せしているのですが、開催の直前まで撮影していたので、時間がなくて自分でレイアウトを考えました。いつもはガチャガチャとたくさん写真を並べて展示するのが好きなのですが、今回は1点1点しっかり見てほしかったので、一列に並べています。デザイナーさんが構成した会場を見るのも楽しいのですが、今回は自分の頭の中にあったものが形になってより感動しましたね。
――写真を続けてきて、変化したと思うことはありますか?
好きな色や世界観は同じだし、そんなに変わらないかなと。でも写真はうまくなったと思います。それはカメラのおかげでもありますね。ライブNDを使って手持ちで波をブラすなど、機能を活かして撮れるすごい時代になりました。
――展覧会を開催してみていかがでしたでしょうか。
2年前に『Life is Beautiful』という展覧会をしたのですが、その時はコロナ禍の真っ最中で、地方の方など来たくても来られなかった人たちがいました。全力投球してつくった展覧会を見てもらえないという悔しい思いがあり、それも今回モチベーションに繋がって頑張ることができたと思います。
――駆け抜けた半年間、お疲れさまでした。次にやりたいことがあれば教えてください。
海に行きたいです。海に戻りたい。自分の帰る場所は海。海があるからこそ、地上も楽しめる。来年は海だけの展覧会をやろうと考えているので、その作品制作に入りたいと思っています。子どもも大人も楽しめる、エンターテインメントな展覧会にしたいですね。
写真展開催期間中に開催されたトークショー
文・安藤菜穂子
写真・竹中あゆみ
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