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ダイバー社員が作りたかったのはどこでも撮れるタフなカメラ〜社内の仲間探しからμ720SWの誕生まで

#創るをツナグ  Vol.2 
防水・耐衝撃のタフカメラ「Toughシリーズ」ができるまで(1)

ダイバー社員こと初代Toughシリーズの発案者 森 一幸さん

OM デジタルソリューションズの「Toughシリーズ」は、いつでもどこでも撮れるタフ性能が魅力のコンパクトデジタルカメラ。モノ作りにこめた思いと開発ストーリーを社員が語るシリーズ第 2 弾 防水・耐衝撃のタフカメラ「Toughシリーズ」ができるまででは、商品開発を手掛けた森 一幸さんと設計を担当した高須隆雄さんが初代機種の誕生から現在までの道のりを語ってくれました。

話し手:森 一幸( OM デジタルソリューションズ 新事業開発室 アソシエイトエキスパート)
聞き手:柴田誠(フォトジャーナリスト)


えっ、勝手 に水中カメラを作っちゃったの ⁉︎

−森さんはどういうきっかけでカメラ開発に関わるようになったんですか?

森:大学時代からダイビングが趣味で、スキューバーダイビングをやっていました。その頃はまだ水中カメラが世の中にそんなになかった時代だったんですけれど、水中カメラを作りたいなと思っていて、いくつものカメラメーカーの就職試験を受けたんです。それで当時、オリンパスの社員の人と話してみたら、ここだったら水中カメラを作らせてくれるかなっていう感じがしたので、入社を決めました。オリンパスの映像事業部門(現在の OM デ ジタルソリューションズ)に入社したのは1996年です。それからいろいろなカメラの開発に関わってきました。

−でも、入社していきなりは水中カメラは作れないですよね

森:そうですね。でも入社した直後から同僚と「一緒に水中カメラ作ろう」って話をしていました。当時はまだフィルムカメラしかない時代でしたけれど、オリンパスのコンパクトカメラのμ(ミュー)シリーズには、水滴とかなら大丈夫な「生活防水」がありました。

−水中カメラを作るきっかけは何だったんでしょう

森:2000 年代に入ると、カメラはフ ィルムからデジタルに移行していきます。その当時、折り曲げ光学系のカメラを作りたいとずっと考えていたんですが、ちょうど世の中ではカードカメラが流行り出したんです。 当時はまだスマートフォンがなかったので「カメラは薄型に価値
がある」みたいな感じでした。当社でも薄型カメラを出したんです。これがCAMEDIA AZ-1(2004年5月発売)です。

CAMEDIA AZ-1

すでに各社から薄型カメラが発売されていて、後発だったということもあって、デジタルカメラとして初めて折り曲げ光学系のレンズユニットを採用したり、背面液晶ディスプレイにはモバイル機器で世界で初めて2.5型の広視野角、高速な応答性という特徴を持つ、ASV(Advanced Super View)液晶を採用したりと、かなりマニアックなカメラでした。


CAMEDIA AZ-1の背面

−そのカメラを防水仕様にしたんですか?

森:ただしこのカメラ、ちょっと大きいし無骨な感じがするんですよね。ですがAZ-1 の大きな特徴っていうのが、折れ曲げ光学系を使っているので、ズーミングするときに体積変化がない(レンズが繰り出さない)ことなんです。体積が変化しないのは防水カメラに適しているんじゃないかって思ったんですよ。じゃあ、これをベースに一度水中カメラを作っちゃおうっていう感じでやってみました。私も水中カメラが作りたかったんで。

−えっ、勝手に作っちゃったんですか?

森:まず実際に潜れるタイプのものを作って社内にアピールするというか、こんなのもできるんだけど、どう?  みたいな感じで話をしていって、少しずつ仲間を増やしてい ったんです。

−社内的にはどんな反響でした?

うちの会社は年に数回、 上司との面接があるんですが、「次、何やりたいの?」みたいな話するときに、こういう考えがあるので、水中カメラをやらせてくださいっていう話をしたら、「じゃあ、やってみるか」っていうことになりました。当時のメンバーは自分を含めて2人。2人で1年間くらいさまざまな検討をして、プロトタイプ機を作ったっていう流れです。中身はまったくAZ- 1と一緒ですけれど、30メートル防水なので30メートルまで潜れます。ですが、 これだとまだ全然デザインされていない状態なので、ちゃんとした商品を作ろうっていうことになって作ったのが、右上のベータ機です。


下が CAMEDIA AZ-1。左上がそれを元にして作ったプロトタイプ機。右上がベータ機。

−そこから一気に開発が進むわけですか?

森:いえいえ。いよいよ生産という段階でNG になっちゃいました。中に入っているレンズの光学系とかが少し古いっていうのが理由です。当時のデジタルカメラは、ズーム比が何倍、液晶ディスプレイが何インチかということで価格が決まるみたいな世界だったんですよ。中のデバイスが型落ちになっちゃっているので、これじゃあちょっと勝負できないよねっていうことで 1 回リセットになったんです。だったらゼロから設計を始めましょうっていうことになり、それで商品化されたのが μ720SW(2006年3月発売)でした。

μ 720SW。SはShock(ショック)、WはWater Proof(防水)を意味していた。

オリンパスの強みである生活防水とデザインに「強いカメラ」をプラスする

−μ720SWはどんなコンセプトのカメラだったんでしょう

森:当時、オリンパスは生活防水のカメラのほかにスキューバーダイビングで使える防水プロテクターっていうケースの中に入れると40メートルまで潜れる防水ケースを発売していて、「水に強い」というブランドイメージがすでにありました。また当社の強みとして、生活防水だけじゃなくて、ちょっと洗練されたデザインっていうのがあったので、「強いカメラ」を作れないかっていうのがコンセプトでした。

−「強いカメラ」ですか?

森:「安心」とか「気軽さ」を謳っていた商品は出していましたが、生活防水だけだと水中では撮れないんです。でもお客さんはもっといろんなシーンで写真を撮りたいんじゃないのかなって思っていました。砂浜を走り回るサンドバギーの上だったり、水辺でバチャバチャするようなところでシャッターを切りたいんじゃないのかなと。 μ720SW は、 「いつでもどこでも撮れる、デジタルカメラの使用フィールドを拡大する」っていうコンセプトからスタートしてます。それは当社が当時からやっていたアウトドアに近い方向性と同じじゃないのかと思っていました。

−当時、ライバルになるようなカメラはあったんでしょうか

森:実は当時、水中で撮影できるカメラは何社からも出ていたんですよ。でもどれも無骨な感じで、ちょっと持ち歩きたくない。極端な言い方をすると、アウトドアだけに持って行けるんじゃなくて「パーティーシーンとかでも使えるようなデザインコンセプトにしたいよね」っていう考えがありました。カタログには出てこないんですけれど。プロトタイプ機を作っていた当時のデザインコンセプトの中に「ジャングルからパーティまで使えるカメラ」っていうのがあって、当時からキーワードとして面白いなって思っていたんです。それがずっと踏襲されています。

−とってもインパクトのあるコピーですね

森:デザインとしては、時計で言えばタグ・ホイヤーとかロレックスみたいなイメージです。そしてハードボイルドの代名詞でもあるお酒を入れるスキットルみたいな、金属の削り出しのような洗練されたデザインの方向に持っていきたいなと思っていました。

−タフなイメージですね

森:デザインに落とし込むときに、「ジャングルからパーティまで使えるカメラ」っていう世界観をうちのデザイナーに伝えて「こういう商品を作りたいんだけど」って話をしたら、デザインコンペを開催してくれたんです。そうしたら、あっという間に10デザインくらい集まったんですよ。プロダクトデザインもいろんなものが集まりました。ネジを打った感じのものとかはちょっと強い印象でしたけど、そのイメージは、今のToughシリーズにも活かされています。

パーティシーンでも使えるエレガントハードギアを目指して

−カラーバリエーションはどのタイミングで生まれたんでしょう

森:最初のコンセプトの時点、μ720SWの開発を始めようという段階で、すでにカラーバリエーションの案はありましたね。3色でいこうということも決まっていました。これ、当時のコンパクトカメラとしては珍しいことなんですよね。
 
高須:ゴリゴリのアウトドアカメラにするんじゃなくて、ちょっとおしゃれなカメラにしたかったっていうか、普段でも当たり前に使えるカメラにしたかったんです。
 
森:そう。普段使いができるカメラ。 それはすごく意識しました。今見ると、相当ちっちゃいよね、これ。

−色はどんなイメージで決められたんでしょうか
 
高須:パーティを意識しているので、シャイニーシルバー、アクアブルー、ローズピンクと薄めの色にしました。
 
森:「ジャングルからパーティまで」っていうキーワードもあったんですけれど、この頃は「エレガントハードギア」っていう言葉も出てきていました。ハードなだけじゃなく、エレガントじゃなきゃいけないよねっていう考えでも作っていました。

発表当時のニュースリリースより

−開発は順調だったんでしょうか?

森:新しいことを始めると、社内からは必ず反感とか不満の声って出てくるものなんです。「こんなもの売れるわけないよ」とか。そこで、実際にプロトタイプ機を沖縄とかに持って行って写真を撮って来て、プリントして社内に貼り出して、勝手に写真展をやったりしていました。こんなカメラができるよって、啓蒙活動をしていくと「あ、なんか面白いことやってるね」って、集まってきてくれたりするんです。興味を持ってくれた人を仲間に入れていくみたいなことをやっていました。そんな人が当時のソフトウェア開発の責任者になったりもして、ちょっとずつプロジェクトを作っていったっていう感じです。

−自分でフィールドテストもやってたんですか?

森:「ちょっと海の中で実写してみたいんだけど」って言ったら、「その辺で撮ってくればいいじゃん」っていうことになっちゃうんです、 伊豆辺りでとか。でも撮りたいのは沖縄の海だったりするので、 ゴールデンウィークとか夏休みに自腹で沖縄に行く予定を立てて、ダイビングショップに行ってツアーを申し込んだりしていました。でも開発中のカメラを持っているのがバレたらまずいので、隠しながら持って行って写真を撮っていました。

プロトタイプ機で撮影した海の様子
μ720SWを手に微笑む森一幸さん

Vol2. 防水・耐衝撃のタフカメラ「Toughシリーズ」ができるまで
は、(2)ダイバー社員が作りたかったのはどこでも撮れるタフなカメラ〜 μ 720SWのタフの秘密に続きます。


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