Vol.2 コロナ禍や分社化を乗り越えて誕生したフラッグシップモデルOM-1
OM SYSTEMを生み出すモノ作りの裏側「ビハインドストーリー」を社員が語るシリーズ第3弾では、コンパクトなボディーに高画質と高性能を兼ね備え、唯一無二の撮影体験を提供する「OM SYSTEM」のフラッグシップモデル「OM SYSTEM OM-1」(2022年3月発売)の開発ストーリーを全5話でお届けします。今回はVol.2ということで、OM-1を皆さまにお届けするまでに様々なハードルを乗り越えた実現したストーリーです。
ハンパじゃない苦労があった熱対策を制したのは設計前の徹底したシミュレーション
−モバイル機器の最大の課題は「消費電力と熱対策」だと言われていますけど、OM-1ではどんな熱対策をされているんでしょうか?
一寸木:実は熱対策については開発内部でも揉めたんです。開発当初、OM-1に搭載した新しい画像処理エンジンでフルに性能を引き出そうとすると、このサイズのカメラでは熱の問題で難しいですよっていう話をしたんです。じゃあどうやったら実際に使えるレベルで組み込んでいけるのかっているのを開発チームで知恵を絞りあい、議論して解決していきました。
西原:スマートフォンやパソコンも同様ですが、デバイスが進化して色々なことができるようになってくると、消費電力が上がって、発熱しやくすなります。対策として効果が高いのは、熱を発する画像処理エンジン、撮像素子(イメージセンサー)、バッテリーそれぞれの物理的な距離を離すのが一番いいんですけれど、設計した後であと3mm外に出すというのは大変です。そこでシミュレーションが重要になってくるんです。
−設計前にいろいろシミュレーションするんですね
西原:プロの写真家がカメラを使用しているシーンを分析して、実際の使用条件に即したかたちでシミュレーションしました。そうしたところ、カメラの熱が撮影によってどう変化するのかとか、どの部分が熱くなっているのかが分かってきたので、この部分の熱を温度の上がっていない場所に逃がそうというようなシミュレーションができ、設計に盛り込むことができました。OM-1ではサッカーの撮影なら1試合撮り続けられますし、4K60Pの動画撮影でもカメラが止まることなく撮り続けられます。
−なるほど。高性能なエンジンほど消費電力も発熱量も大きくなるので、その対策をどうするかっていうのが設計の難しさなんですね
一寸木:物理的に熱を逃すようにするだけじゃなく、ソフトウェアの対応として操作の合間に省電力にすることで、なるべくカメラが熱くならないようにということを開発の最終段階までやっていました。熱を出さないことを目的にして性能が出ないんだったら、それは本末転倒で意味がありませんから。性能を維持したまま、どう動かしたら一番熱が発生しないのか、実使用シーンを想定して、かなり考え抜いています。
−省電力と性能の維持の両立というのは難しそうですね。
西原:そうなんです。今回のように、主要デバイスが全て変わってしまうような場合には、ファームの初期段階では全ての機能が動かなかったりするんです。ですが、そんな状態でもシミュレーションがちゃんとできていれば、最終的に予測内に収まるんです。
一寸木:シミュレーションは完璧だったんですけど、その後が大変でした。実際に動かすところまで持っていくのには結構苦労したんですよ。「熱を抑えながら1000枚撮れるようにしたい」ということなんで、随所にアクロバティックな制御を組み込んでいたりします。しかも新しいエンジンなので、思ったように動かない。最後の最後まで待ってもらってシミュレーション通りになったという感じでした。
−シミュレーション通りの結果になるっていうのは凄いことですよね
一寸木:これまでのカメラ開発を通して、シミュレーション条件の蓄積もあるので、その成果が出たんだと思います。OM-1を手にして、ほんのり温かいと感じたら、この程度で収めるのには大変な苦労があったんだなぁと感じてもらえたら嬉しいです。
それってアリ? フラッグシップ機の開発途中で会社が変わった
−ところでフラッグシップ機ですから、開発にもかなりの時間を要したと思いますが、開発の途中で会社がオリンパスからOMデジタルソリューションズに変わることになったんじゃないでしょうか。 そのあたりで苦労されたことって何かありましたか?
一寸木: OM-1のプロジェクトは、もともとオリンパスでスタートしています。様々な変化があった中で、OMデジタルソリューションズとして製品開発を進めていって、実現したのが OM-1なんです。ご存知のように、OMデジタルソリューションズがオリンパスのカメラ事業を引き継いで新会社として動き始めたのが2021年の1月1日。 OM-1はその14ヶ月後、2022年3月に発売されました。コロナ禍もあり、新会社になったこともあって、開発としてはプロセスや機材、評価環境など、多くの点を見直す必要がありました。新会社設立にともなう開発拠点の移動もありましたし、人員の変更もありました。
−時期的には、開発の最終段階がコロナ禍だったと思いますけど、この影響も大きかったんでしょうか?
一寸木:設計の段階から各メンバーがリモート勤務と出社勤務のハイブリッド勤務を余儀なくされた状態だったので、メンバー同士の意志疎通にはとても苦労しました。プロジェクトがスタートした頃は、まだオンライン会議ツールが社内全体では運用されていなかったこともあって、部門で運用していたシステムを状況を見ながら整えていき、プロジェクトで運用していったという感じです。
西原:試作機を作るには、多くの部品を集結させなければいけないんですけど、各地でロックダウンが発生し、海外からの部品を思うように集められませんでした。そのたびに日程調整を繰り返す日々でした。また、最低限の部品数でテスト評価が達成できるようにする必要があったので、試作方法のバリエーションやステップを通常よりも細かく分けることもしていました。
−さまざまな業界で半導体不足が問題になっていましたよね。カメラ開発にも影響がありましたか?
西原:半導体不足にも苦労させられましたね。具体的には、設計時に想定していた部品が入手困難になってしまい、開発の途中で入手できる部品に合わせて設計を変更したりもしています。試作中での設計変更となると、評価もイチからやり直しです。喉元過ぎて忘ちゃっていることもありますけれど、ホントに大変でした。
西原:今思えば、当時はいろいろありました。ですが、日程が厳しい中でも「この素晴らしいカメラを予定通りお客様にお届けしたい」という全員の目標は明確でした。全部門が一致団結して、それぞれの部門でできることは何かをみんなが考え、みんなが手を動かしたことで、完成させることができたと思っています。
−時期が時期だけに、OM-1は通常よりも多くの困難を乗り越えて誕生したカメラだったんですね。具体的にどんな性能のカメラに仕上がっているのかを教えてください。
#創るをツナグ OM SYSTEM OM-1開発ストーリー は、Vol.3 に続きます。
■話し手:一寸木達郎(写真左・ELシステム開発2ディレクター)西原芳樹(写真右・製品開発1 ディレクター)
■聞き手:柴田 誠(フォトジャーナリスト)