山の景色を撮りにでかけよう~山小屋一泊編 - 川野恭子
はじめに
山に登り始めて7年が経ちますが、今も飽きることなく登っています。テレビや書籍、インターネットで世界中の絶景を見ることは出来ますが、自身の足で辿り着き、自身の目で見る山の景色は、比較にならないほど感動するからです。どこまでも続く雄大な稜線、朝夕の光に燃える空と山肌、数多の星々が降り注ぐ夜空…。山を登るようになって本当に良かったな、と思っています。この感動を皆さんに楽しんでもらいたいと思い、今回は山小屋に一泊することを前提としたフォトトレッキングの楽しみ方をお伝えしていこうと思います。私の経験が皆さんの参考になれば幸いです。
そもそも山小屋とは
『山と高原地図』『YAMAP』『ヤマレコ』などの登山地図を見ていると、登山道上に「○○小屋」や「○○山荘」などと記されています。基本は宿泊施設ですが、軽食やお手洗いなど利用できる小屋もあります。通年営業している小屋、夏山シーズンのみ営業している小屋など、小屋によって営業期間は異なります。予約は、直接電話やホームページから行います。コロナ以前は予約不要で泊まることが出来ましたが、現在は予約が必要な小屋がほとんどです。宿泊内容や予約方法について確認し、体力に見合ったコースやスケジュールを組んで予約しましょう。自信が無い人はツアーを利用するのも良いでしょう。
山小屋の過ごしかた
山小屋は、通常の宿泊施設とは過ごし方が異なります。15時までには到着する、お風呂はない、石鹸は使わない、水やお湯は購入する、消灯前に翌日の準備を行い、消灯後は静かに寝る…など、すべての小屋が当てはまるわけではないですが、概ねこのような環境で過ごすことになります。食事以外の時間帯は談話室で蔵書を読んだり、食堂で軽食を頂いたり、お酒を飲んだり、外の景色を楽しんだりと、皆さん思い思いに過ごしています。
水や食料は多めに
行動に必要な水や食料は多めに持参しましょう。水源が近い山小屋では無料で水をもらうこともできますが、水源が遠い山小屋では溜めた雨水を煮沸したものやペットボトルの水を購入することになるので、予約時に確認すると良いでしょう。食料は、一泊二食(朝夕)付きで予約するなら、その他の時間帯…昼食と行動食を持参することになります。小屋によってはお弁当を頼むことが出来るので、こちらも予約時に確認すると良いでしょう。
バッテリーはどうする?
行動時間が長くなると不安なのが、スマートフォンやカメラのバッテリーです。朝夕に発電機を回す山小屋では充電可能なことが多いですが、発電機を使わない山小屋もあるので、予約時に確認すると良いでしょう。私の場合、スマートフォンはモバイルバッテリーから行い、カメラの電池は1日につき2個持つようにしています。愛用しているOM-5なら、電源オフ時にモバイルバッテリーから本体内の電池をUSB充電が可能なので、電池が足りないときは睡眠中に充電しています。
山登りにあると良いもの
基本の持ち物は黒字、小屋泊にあると良いものを赤字で記載しました。小屋によってはインナーシュラフや簡易シーツが必要になる場合もあるので、予約時に確認しましょう。また、人によって必要な持ち物は変わりますので、参考にしながら準備しましょう。
カメラとレンズ
泊まりの山行は荷物が多くなるので、無理のない機材選びが重要になります。私の場合、カメラ1台とレンズ2本、カメラバッテリー(1日につき2個程度)が基本。レンズは標準ズームレンズが必須で、撮影条件に応じて開放F値の小さい単焦点レンズを選んだり、望遠ズームレンズを選んだりしています。星空の撮影を予定しているなら、三脚と開放F値の明るい広角寄りのレンズを持参するのがおすすめです。
山写真の基本設定
露出モードは、AutoやP(プログラム)モードでも良いですが、A(絞り優先)モードがおすすめです。絞りF値を設定することで背景のぼかし具合をコントロール出来ます。
あとは、露出補正で好みの露出(明るさ)に調整するだけです。各作品に具体的な設定を記載しておきますので、参考にしてみましょう。
ただし、星空を撮影する場合は上記とは異なります。
上記は星空撮影の基本設定なので、露出(明るさ)を暗く仕上げたいときはISO感度の数値を低く、明るく仕上げたいときはISO感度の数値を高く設定しましょう。
山を美しく撮るポイント
今回は、山小屋に泊まるからこそ撮影出来るシチュエーション…朝夕の景色、星空、稜線などの撮影で実践すべきポイントを、おすすめの山ごとに紹介します。「山の景色を撮りにでかけよう」と合わせて参考にすると、山の思い出を素敵に残すことが出来るでしょう。
塔ノ岳(とうのだけ)
神奈川県丹沢山地南部にある標高1,491mの山。アクセスが良いので日帰り可能。主要な登山口となる「大倉」からの標高差はおよそ1,200mあります。登山者が多いので、標高の高い山へのステップアップとしておすすめしたい山です。山頂には「尊仏山荘(そんぶつさんそう)」があります。
塔ノ岳山頂からは、富士山を望むことが出来ます。夕焼けの色を強調するため、カラークリエーターを利用しました。COLOR+2で黄色の色相を加え、VIVID+2で彩度を上げています。富士山の手前に連なる山々がシルエットとして浮かび上がる様子がとても印象的だったので、山並み多め、空少なめで撮影しています
夜景と星空。これこそが小屋泊の醍醐味でしょう。ただ、街が明るいので見える星は少なめ。そこで、ライブコンポジット機能で星を軌跡にして撮影し、星の存在感を高めました。ライブコンポジット機能は撮影経過を画面で確認しながら撮影できるので、星空撮影には欠かせない機能です。
金峰山(きんぷさん・きんぽうざん)
山梨県と長野県の境界にある標高2,599mの山。みずがき山荘登山口からの標高差は1,089m。古くから山岳信仰の対象で、山頂にそびえる五丈岩は御神体として崇められています。山頂から15分ほど降りたところにある「金峰山小屋」は、小屋の食事がお洒落で美味しいという噂もチラホラ。その食事を求めて登る人もいるとか。
朝焼けに染まる五丈岩を主役にしたかったので、地面多め、空少なめの比率で配置しました。こちらの作品もカラークリエーター機能を使用し、朝焼けの色を強調しています。朝焼けのピークは僅かな時間しかないので、日の出の30分前にはスタンバイし、構図や設定を決めておくと良いでしょう。
金峰山から瑞牆山(みずがきやま)方面に続く稜線からの景色は最高。人物を入れ、景色の雄大さが伝わるように撮影しました。広い景色を撮影するときは、遠景だけでなく、手前に岩や木などを配置すると奥行きのある仕上がりになります。手前から奥までピントが合うよう、絞りF値を6.3に設定しています。
燕岳(つばくろだけ)
北アルプスに属する標高2,763mの山。燕岳登山口からの標高差は1,313m。北アルプス入門の山で、白く美しい山容から「北アルプスの女王」とも言われています。燕岳の近くには燕山荘(えんざんそう)という女性に人気のお洒落な山小屋があります。私が最初に登った北アルプスの山は燕岳でした。
標高の高い山で感動するのは稜線の美しさ。「C」や「S」などの文字を描くように稜線を配置するとバランス良く見えます。仕上がりにアートフィルターの「ポップアートII」を選ぶと色と影が濃くなり、メリハリのある山肌に仕上げることが出来るのでおすすめです。
空が明るくなりかけていたので、露出(明るさ)を抑えるためにISO感度の数値を低くしました。仕上がりにアートフィルターの「ネオノスタルジー」を選ぶことで、空の明るい部分が朝焼けしているように仕上げています。M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO は絞り開放F値が小さいので、星空撮影にもおすすめです。
天気が良ければ朝焼けと雲海を楽しむことが出来ます。朝焼けの色を強調するため、カラークリエーター機能でオレンジの色相を被せ、彩度を上げました。カラークリエーターを使うと、30段階の色相調整と8段階の彩度調整(Vivid+3~Vivid-4)が可能なので、思いどおりの色に仕上げることが出来ます。
蝶ヶ岳(ちょうがたけ)
アルプスに属する標高2,677mの山。上高地徳沢登山口からの標高差は1,115m。山頂から続く緩やかな稜線上に「蝶ヶ岳ヒュッテ」があり、小屋のすぐ目の前には槍ヶ岳や穂高連峰の大パノラマが広がります。登山ルートが多く、上高地からもアクセスできるので、公共交通機関で行きやすいのも魅力です。
朝焼けに染まる蝶ヶ岳と雲海。雲海と山小屋の両方を入れたかったので、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROを使いました。山小屋が入ると景色のスケールが伝わりますよね。手前のハイマツを多く入れたことで奥行きも表現できました。
残雪の槍ヶ岳と穂高連峰がパッチワークのようで美しいと感じたので、山肌を多く入れて撮影しました。山肌の立体感を出すため、ハイライト&シャドウコントロール機能でシャドウ部の明るさを暗く仕上げています。山が霞んでいるときに使うテクニックのひとつです。アートフィルターのポップアートIIを使用しても良いでしょう。
高山植物の向こう側に山並みを入れて撮影しました。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROは、ズーム全域で最大撮影倍率0.5倍*なので、広角マクロで小さな花に寄って存在感を出しつつ、背景を見せることが出来ます。この一本で広い景色もハーフマクロも楽しめるので、個人的にはマストなレンズです。
最後に
今回は山小屋一泊を想定した写真と山の楽しみ方をお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?日帰りのフォトトレッキングでは見られない、美しい景色がたくさんありましたよね。私もこのような絶景に憧れて少しずつ高い山に挑戦していきました。運動とは縁遠い生活をしていた私が山に登れるのは、OM SYSTEMが小型軽量であることに加え、写真を撮りながらだと途中で立ち止まるので、自然と休憩がとれて苦しくないからでしょう。
標高が高くなるとハードルも上がりますが、それ以上の感動が得られるのが山の魅力でもあります。前回の記事を参考に、身近な山から自分の体力を知り、山登りに慣れてきたら次の目標の山に登ってみてください。無理をせず、安全なフォトトレッキングを心がけ、山と写真を楽しんで頂ければ嬉しいです。
文・写真:川野恭子(写真家)
Kyoko Kawano Photographer's site
Facebook:https://www.facebook.com/Kyoko.Kawano.K
Instagram:https://www.instagram.com/kyoko_kawano_photographer【BOOK】
写真集「山を探す」(リブロアルテ)
山の辞典(雷鳥社)