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命の輝きを写したい。第15回FOCUS展「杜の都の愛しき君たちへ」鈴木宏美インタビュー

■写真展情報
会場:OM SYSTEM PLAZA クリエイティブウォール
開催期間:2024年6月27日(木)~ 7月8日(月)

■出展者インタビュー
OM SYSTEM のカメラ・レンズを使って表現力、創造性に富んだ作品を生み出すフォトグラファーに、発表の場を提供するOM SYSTEM PLAZA FOCUS展。OM SYSTEM プロ会員(OMPS会員)からの推薦により、年間2名の展示を行っています。今回は写真家・杉山親生氏の推薦で選ばれ、クリエイティブウォールで展示した鈴木宏美さんをご紹介します。

※本記事は会期中に開かれたギャラリートークの内容とインタビューをもとに構成しました。

鈴木 宏美 すずきひろみ
応用物理学科卒後民間研究所に研究員として勤務し介護のため早期定年退職、光学とデジタル知識を駆使して身近な自然を中心に写真を撮るエンジニア系フォトグラファー。
受賞歴 全日本鳥フォトコンテスト2023グランプリ、フォトサミットin sendai 2022 山形県知事賞、ゆるり散歩思い出フォトコンテスト グランプリ、味フォトコンテスト グランプリなど。
作品展歴 宮城県芸術祭、エプサイトギャラリ-入賞作品展、OZC(OM SYSTEM ズイコークラブ)仙台支部展、OZC湘南支部展など。
公益社団法人宮城県芸術協会写真部会員、OZC仙台支部会員、OZC湘南支部会員



仕事で得た知識を撮影に活かして

――鈴木さんはこれまでどのように写真に取り組んでこられましたか。

私は30年以上、メーカーで研究開発の仕事に携わり、光センシングやバイオセンサー、レンズの設計等を行っていたので、もともとカメラの技術的な知識がありました。いかに自分の作風に合うようにOM SYSTEMのカメラの機能を使えるかを考えながら、作品づくりを楽しんできました。

――作品をつくり始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

子どものころからカメラはやっていましたが、作品をつくりはじめたのは15年ほど前からです。病気で自宅療養していたときに、リハビリのために親がOLYMPUS PEN E-P3を買ってくれて、散歩する目的で始めました。それからコンテストで受賞したり、勉強会に参加したりするようになって、OM SYSTEM ズイコークラブの湘南支部に入りました。グループ展などに参加するようになったのはその頃からですね。それから5年前に介護のために地元に戻ったため、仙台支部の杉山親生先生の元で学ぶようになりました。

――FOCUS展に選ばれたときのお気持ちはいかがでしたか。

今年のお正月明けに杉山先生からギャラリーで展示をやらないかとご連絡を頂いたのですが、個展を開くのは初めてでしたし、新宿でやれるなんていうチャンスはまずなかなか巡ってこないですから、「はい、やります、やらせてください」とすぐにお返事をしました。

――「杜の都の愛しき君たちへ」というタイトルの展示ですが、作品はどのように決めましたか。

私はネイチャー写真が得意なので、杉山先生にこの10年間で撮影した風景、鳥、昆虫などのデータを500枚くらいお見せしたところ、全部見終わった後に「鳥がいいんじゃない」とおっしゃられて。次に200枚くらいに絞って鳥の写真を持って行きましたが、気に入っている写真をアピールしても、「ダメだね、弱い」と、どんどん削るんです(笑)。最終的には30枚になりました。クリエイティブウォールはギャラリーとは違って空間でじっくり見せる環境ではないから、とにかく説明がいる写真はダメだと。一目見て、足が止まる写真にしなさいと言われて、さらに絞ったのが今回の14枚です。


観察と準備から始まる撮影

――鳥を撮影するようになったきっかけは何でしょうか?

この1枚の写真です。10年ほど前、旅行中に雪が降りだして、雪景色を撮ろうと近くの山へ出かけたら、その山の小さな池にちょうどアオサギが来ていたんです。周りの音が雪に吸収されてシーンと静まり返るなか、首を縮めて寒さに耐えているアオサギの命の鼓動というか、心臓の音がドクドク聴こえてくるようでした。

「命の鼓動」

OM-D E-M5
M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7
撮影モード:S(シャッター優先)、焦点距離(35㎜換算):443㎜
シャッター速度:1/500秒、絞り地:F6.3、露出補正:+1.0 EV、ISO感度:1600

夢中になってシャッターを切っていたら、はじめは足首くらいだった雪がひざ下くらいまで積もっていて、後ろを見たら吹雪に。「どこから来たんだっけ?」っていう世界になっていて、危なかったですね(笑)。そのとき、たとえば寒さや静寂という、言葉にはできないものがあふれ出るような「鳥景写真」が撮れないかな、と思ったのが始まりでした。

――鳥を撮影するとき、心がけていることはありますか?

とにかく観察することを心がけています。私はよく家の近くの広瀬川周辺で撮影しているのですが、四季を通して、どこにどんな木が生えて、いつ花が咲いて、いつ実がなって、いつ鳥や虫がくるのか、という様子をずっと見ているんです。そうすると生きものの生活や行動パターンが分かるようになって、たとえば鳥がくる場所を予測してフレーミングして待つことができるようになります。そうするとチャンスが増えますよね。

もう一つは、下準備です。撮影は行った時から始まるのではなく、準備の段階から始まると思っています。

たとえば、広瀬川の鮎漁の写真がありますが、じゃあこの写真を撮るには、鮎はいつどこに上がってくるのか?という話になるんですよね。水温や気温、日照、水量等によって、撮影する時間も場所も変わります。1週間くらい前から気象庁のデータを見て調べたり、広瀬川は農業用水の取水によって水の量が変わるため、仙台河川国道事務所のモニターで堰の水の量を見たりして、どこに何時頃行くか決めています。

「狙いすまして」

OM SYSTEM OM-1
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO+MC14
撮影モード:S(シャッター優先)、焦点距離(35㎜換算):840㎜
シャッター速度:1/2000秒、絞り地:F5.6、露出補正: 0.0 EV、ISO感度:400


命の輝きを感じる力強い写真

――背景にこだわった作品も多いですね。

この写真は「合成ですか?」と聞かれることも多いのですが、近所にある三居澤大聖不動尊の水路が背景になっているんです。合成ではありません。水路の中に沈められた、鎖に括られた細長い布切れに寄ってくる魚をダイサギが狙い、そのダイサギを私が狙って撮った写真です。

「鷺の寒ざらし」

OM-D E-M1 MarkⅢ
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
撮影モード:A(絞り優先)、焦点距離(35㎜換算):200㎜
シャッター速度:1/200秒、絞り地:F4.0、露出補正:-0.7 EV、ISO感度:200

――ビルを背景にした作品も迫力がありました。

撮影を終えて帰ろうと後ろを向いたときに、ミサゴが鮎をくわえてちょうど川から上がってくるところが見えたんです。慌てて走って近くまで降りて追いかけました。視野を広げて背景を探すと川の対岸にマンション群があり、何かやってくれないかなと思った瞬間、羽根をぶるぶると広げてくれたんです。しぶきがバーッと散って、思わず「ありがとう!」と言いながらシャッターを押しました。

「飛沫をまといて」

OM SYSTEM OM-1
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO+MC14
撮影モード:S(シャッター優先)、焦点距離(35㎜換算):840㎜
シャッター速度:1/2000秒、絞り地:F5.6、露出補正:+1.0 EV、ISO感度:3200

――鮎を捕まえる鳥の、野性味のある写真ですね。

鮎の血は、撮影しているときは気づかず、プリントしているときに見つけたんです。鳥の一生って短いですが、必死になって生きている。そんな命の輝きを感じる力強い写真が好きなのかもしれません。


ギャラリーでの個展を目指して

――初めて個展を開催してみて、いかがでしたか?

グループ展とは違い、自分でストーリーを作って展示する経験ができてよかったです。お客さんにも、迫力や力強さを感じていただけたようでした。鮎釣りの方も来てくださったんですよ。仙台で撮影している時に出会った方に展覧会のことをお話したら、お仲間に紹介してくださって。仙台、岩手、四国などから来てくださいました。

人によって感動する写真が違うし、見方も違う。自分が訴えたいと思った見方ではなく、そういう見方もあるんだと知れたことがとても面白かったです。次の作品に活かせそうです。

――今後の目標を教えてください。

今回は鳥の写真だけでまとめましたが、今後は、仙台市や広瀬川の自然を春夏秋冬で追いかけて、鳥だけでなく、風景や昆虫、人間の営みなどを一つのテーマでまとめた作品を作りたいと思います。そして今度はギャラリーでの展示を目指したいですね。

ギャラリートークの様子


推薦者のコメント

杉山親生先生と鈴木宏美さん

鈴木さんを推薦した理由は、ふたつあります。ひとつは、計画的に下準備をして撮影に臨む姿勢。我々プロの世界では当たり前のことですが、鮎漁の写真を撮るにしても、川の水量や鮎の習性、太陽の位置など、アマチュアの方でそこまで厳密に計算して撮りに行かれる方はほとんどいません。もともとカメラの知識がある方なので、私がセミナーで話す内容もすぐに理解して実践されています。もうひとつは、作品の素晴らしい表現力。水が流れる音や水しぶきの音が聴こえてくるような、五感で楽しめる魅力があり、1枚の写真の中に、非常にインパクトの強いストーリーが感じられます。伝えるための演出を瞬時に行うには、やはり下準備をしっかりしていないとできません。今後はテーマを持って撮影に挑み、新しい作品にトライしてほしいですね。

文・安藤菜穂子
写真・竹中あゆみ


■過去のFOCUS展インタビュー

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