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中村利和写真展「鳥の肖像」インタビュー

野鳥の観察と撮影を40年以上続けている中村利和さん。毎年、北海道など各地に出かけて自然の中で出合う鳥をその環境と共に撮影しています。今回の写真展では主に2022年~2023年にかけて撮影した45点を展示しました。「その鳥らしさ」を写しだした作品について伺いました。


その鳥らしさが現れた‟肖像写真”

――「鳥の肖像」というタイトルですがどのようなところにこだわって撮影された作品でしょうか。
人物のひととなりが現れる「ポートレイト」のように、鳥がこちらを警戒していない自然な表情やしぐさを撮りたいと思って撮影した作品です。特にこだわっているのはその鳥が暮らす環境を含めた背景や光。その鳥らしい姿を捉えたいと思って撮影しています。

――「その鳥らしさ」はどういったところに現れるのでしょうか。
例えば夏鳥は、春に南のほうから日本に来て繁殖をし、秋になるとまた南の方へ帰っていきます。繁殖の時期には、なわばりの宣言とメスを呼ぶ求愛のためにさえずるんですよ。だから夏鳥であれば、さえずっているシーンが美しいと思います。

――いくつか口を開けてさえずっている鳥の写真がありますね。
そうですね。ウグイス、コマドリ、オオルリは日本三鳴鳥と呼ばれていて、さえずりが美しい鳥として知られています。そんな鳥たちもやはりさえずっているところがその鳥らしいと思って撮影していますね

観察に時間をかけてイメージ通りに撮る

――撮る際に気をつけていることはありますか?
こちらの存在をできるだけ意識させず、警戒させないようにしています。だから鳥を見つけてもこちらからは追いません。観察に時間をかけて、向こうから来てくれるのを待つという感じです。午前中のほうが鳥たちの動きが活発なので、朝に撮影することが多いですね。昼前後になると表に出ないでひっそりしていることが多いです。

――撮る場所はどのように決めるのでしょうか?
鳥が縄張りを巡るルートやさえずる場所など、決まっている場合も多く、事前に観察しているとわかるんですよ。それがわかれば背景と光を見て撮りたい場所が決まり、そこにくるのを待ちます。いろんな楽しみ方があると思いますが、自分の思い描いたイメージ通りの作品を撮るには、鳥の動きを先読みするのがよいと思いますね。

――時間のかかる撮影ですね。
そうですね。それでも鳥が来ないことは結構あるので、今日1日何も撮れなかった、という日はたくさんあります。だからねらい通り撮れた時は、「やった!」って感じで、嬉しいですね(笑)。

個性豊かなさまざまな鳥たち

――特に時間をかけて撮影した鳥はどちらですか。
私の1番好きな鳥、ミソサザイです。ピンポン玉に尾っぽとくちばしがついたぐらいの大きさで、日本で2番目くらいに小さい鳥。でもこんなに小さいのに鳴き声は元気が良くて、鳴くと存在感がある鳥なんですよ。今年は水面を背景に撮りたいと思っていました。

ミソサザイ

縄張りの中を巡回しながらさえずってメスを呼んでいるのですが、その中でも水面を背景に撮れる場所を確認し、鳥が警戒しないようにカムフラージュで迷彩柄の布をかぶって待っていました。そうやって観察と場所の選定に時間をかけて撮影しましたね。

――DMで使われていた写真は日本画のような1枚でした
これはアトリという鳥で、秋に日本に渡ってきて冬を日本で越し、また春に北へ戻る冬鳥です。ズミの実を食べに来ているところですね。7、8羽の群れでした。背景が抜けやすい、枝先の一番よさそうなところに来てくれるのをねらって撮りました。

――雪の中、鳥の毛がふわふわできれいですね。
300㎜のレンズで撮りました。レンズの性能が活きた写真じゃないかなと思います。

アトリ

――赤い仮面をつけたような大きな鳥の写真も迫力ありました。
ヤマドリですね。警戒心の強い鳥です。林道で見かけてもすぐ走り去ってしまい、後ろ姿しか見たことがありませんでしたが、去年の春にたまたま知り合いにヤマドリがいると教えてもらって、見に行くことができました。自分の縄張りに動くものが来ると追いかけてくる気性の荒い個体がいるという話は聞いていましたが、この時もカメラを向けると寄ってきました。他の作品は鳥がこちらを意識していない自然な姿ですが、この写真のヤマドリだけはこちらを完璧に意識しています(笑)。

ヤマドリ

――この2羽の鳥は寄り添う姿がかわいらしいですね。
この子たちはジョウビタキといって今までは冬鳥だったんです。秋に渡ってきて、春には帰る鳥だったんですけど、最近は帰らずに日本で繁殖する個体がすごく増えています。気候変動の影響かもしれませんが、渡るのが嫌になっちゃったのかもしれないですね。

ジョウビタキ

――撮るのに苦労した鳥はいましたか?
思いがけず撮影できたのはこのハヤブサです。海が見える展望台で柵の向こうの岩に止まるよって地元の方に教えてもらいました。まさか近すぎると思っていたのですが、すっと飛んできてさっと止まって。最初は飛ばさないようにゆっくりカメラを構えてそっと撮っていたのですが、全く警戒していないので色々とレンズを変えて撮っても大丈夫でした。お気に入りの岩だったのでしょう。たまにこんないいこともあったりします。

ハヤブサ

好きな鳥たちを昨年よりもよく撮りたい

――鳥を撮りはじめたのはいつ頃ですか。
写真をはじめたのは中学生のとき。鳥にも興味はありましたが、望遠レンズが買えないのでその時は昆虫をよく撮っていました。高校で写真部に入り、サギの写真を撮っている同級生がいて一緒に撮りに行くようになったのがはじまりです。父親が鳥好きで、インコやジュウシマツなどの飼い鳥やレース鳩なども飼っていたから、小さい頃、うちには鳥がいっぱいいたんですよ。でも僕は飼い鳥より大空を飛んでいる鳥がいいなと思っていました。

――展示会場はどのように構成されましたか。
年度はいろいろですが1月撮影の写真から始まり、冬、春、夏、秋と季節をめぐって最後は12月で終わっています。頑張って撮影してきたので、こうやって改めて見渡すと感慨深いですね。

――これから撮ってみたい鳥はいますか?
見たことがない鳥も見たいとは思いますが、行けば普通に会える鳥のほうが、何回か通ってよりよい作品をつくることができます。そう思って大体環境がわかっている同じ場所に撮影に行くことが多いです。毎年鳥と出会うのが楽しくて繰り返し撮影に出かけているので、これからも楽しんでやれたらいいかなと思いますね。

展示会場で販売されていた中村さんの写真集『鳥の肖像』


写真展開催期間中に開催されたトークショー


文:安藤菜穂子
写真:竹中あゆみ


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