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自然の中で、静寂な時と向き合う。福田健太郎 写真展「MUGON」インタビュー

写真家になって約30年、日本各地を周りながら自然風景を写し続けている福田健太郎さん。2024年12月5日~ 12月16日まで写真展「MUGON」を開催しました。2023年9月から約1年かけて撮影した作品について、お話を伺いました。


静寂を感じる穏やかな風景

――今回の写真展について教えてください。

今の自分はどういう風景に反応するのか、心惹かれるのかというのを、自分自身が知りたいなと思い、今回の写真展では「今」というものを出して行こうと思ったんです。そう考えて撮り進めるうちに、今はガツンと来るような風景ではなく、ゆったりとした流れの中にある静寂さや、自然が淡々と巡りゆく姿を素敵だなと感じることに気づいて。静けさを感じる風景を探しにいこうと思ったのが今回の展示のスタートです。

――タイトルの「MUGON」(無言)にはどのような意味が込められていますか?

言葉をあまり話さずに、五感を研ぎ澄ませて自然の音や気配を感じ、風景を見つめるという意味でつけました。また多くの人にとっても、賑やかにわいわいと友達同士ではなく、1人でポツンと無言になって、自然と向き合ってみてほしいという願望も込めています。

あとは、最近SNSなどで、誰でもいろんな意見を気軽に発信できるので、その言葉の洪水に飲み込まれ、嫌な部分を見てしまうこともありますよね。でも自分が生きていくなかで、大切にしたいことは何かと考えたときに、そういったものは排除したほうがいいなと思って。だから、「少し無言になりましょうよ」「本当に大切なものは何ですか」という、反骨精神や問いも込めた「無言」でもあります。余計なお世話ですけどね(笑)。

――静寂を感じる風景を求めて、いろんな場所に撮影に行かれたのですか。

そうです。特定の場所にこだわって掘り下げているわけではなく、本当にふらっと訪ねて何日か過ごし、心が落ち着いて静まったところで見えてきた静寂な世界を撮影し、セレクトしていきました。

不思議で面白い、自然の魅力

――これはなんだろう?という写真も。この写真は、馬の背中のようにも見えます。

そうそう、私もそういった気持ちです。自然の中って不思議に溢れているので、「なんなんだこれは、面白い!」って撮っているところもありますね。

この写真は山形県の遊佐町(ゆざまち)にある釜磯海岸で撮影したもの。鳥海山からの清らかな水が地下に潜っていて、砂浜にこんこんと湧き出ているのですが、その伏流水が砂を削ってできた紋様です。夕方の光で輝き、なんとも言えない黄金色になりました。不思議ですよね。おっしゃるように馬の尾っぽや筋肉のようにも。想像を膨らませて見てもらえるのが楽しいです。

――この写真は、自然の色あいが美しいです。

嵐の日の翌日に、秋田県の鳥海山のブナの森の中に分け入って撮った写真です。葉や小枝、太い幹がバサバサと落ちていた中に、この木がありました。若い幹がめくれているのですが、青白い滑らかなブナの木肌と幹の内部、色鮮やかな黄色のコントラストがきれいでした。

左下にいるのはオオナメクジ。嵐の去った翌日でも、平然と確かに、淡々と行きたいところへ向かっているよう。この自然の持つ色の妙、美しさ。そしてその中にはこういった小さな命、昆虫や動植物のうごめく世界が溢れている。時間が経つとくすんだ色合いになってしまうので、嵐が過ぎ去った日から間もないからこそ、生き生きとした木の鮮やかさが写せました。

何でもない、自分らしい風景

――地面に落ちた葉の立体感に目を奪われます。

晩秋から初冬にかけての森の中で撮影した写真です。林床植物は、春は本当にみずみずしい青で、生き生きと放射状に葉っぱを拡げますが、季節が移ろうと枯れていきます。ふと足元を見ると、なんとも言えない、このカールした姿が美しくて。だからそれをてらいなく、ただ見下ろして標準レンズで撮りました。

OM SYSTEMの真骨頂、コンピュテーショナル フォトグラフィのハイレゾショットを使い、精細感をアップすることで、乾燥した葉っぱの質感がビシッと出てきました。カメラとプリント、全ての良さが相まった作品となりました。

小型軽量でアクティブに動けるところがOM SYSTEMの魅力。でも高解像の世界も楽しめるところが、風景を撮る身としてはありがたいです。大きくプリントしてもこういったディテールがここまで破綻なく再現できるので、なんかこう、かじりついて見たくなるような感じ。モニターで再生して拡大しても、すごいな、こんなの撮れちゃうんだと思いましたが、改めてプリントして見ると惚れ惚れしますね。なんでもない風景ですが、自然のアートのようです。

――なんでもないと言えば、最後の写真も特定の場所の写真ではないと思いますが印象に残りました。

潮が満ちた時にバシャン!としぶきが飛んで、ぽっかり空いた穴に水が溜まっていたんです。角度を変えて見ると、そこだけきらきらと太陽の輝きがあって。カメラを持って何か面白いものはないかとゆっくり歩いていくと、自分ならではの風景が見つかりますよね。

カメラを持たずにただ歩いているだけなら、多分見逃してしまう。それが写真の面白さだと思います。なにか意味があり撮っているのではなく、ほんとうにストレートに、なんか素敵だな、面白いなと思って撮った写真です。

自然への憧れから始まった写真

――幼少の頃から自然が好きだったんですか?

出身は埼玉県川口市。家業が鋳物屋だったので工業地帯で暮らしていました。対極にある自然への憧れがあったのかもしれません。

家の近くには、埼玉県と東京都を流れて東京湾に注ぐ、大きな一級河川の荒川があったのですが、子どもの頃、よくその土手の上に登って、広い景色を眺めていたんです。川の上流をたどっていけば、多分、深い山があるんだろうなとか、反対側へ行けば大海原が果てしなく続いていて、その先には違う大陸があるのかな、とか。自然の壮大なスケール感を、幼心に思い描いていました。想像するのが楽しかったんです。

そんな自然への憧れと、たまたま祖父の趣味で親近感があったカメラがつながって。あらゆるものを見てみたい、自分が出会ったもの、心惹かれたものを、記憶にとどめて写真に収めていきたい…そう思って始めたのが最初です。18歳の時ですね。

写真の知識は何もありませんでしたが、最初から自分には写真しかないと思っていました。自分にはできると。そこから30年近く、諦めることなく続いてしまいました。感謝しかないですけどね。

――撮っても、撮っても、興味がつきない?

そうですね。天候によっても見え方は全く違うし、自分の体調や色々なことが影響して見えてくる風景も違う。その時に何が見えるのか、ということを楽しんでいます。

私の元々の性格だと思うのですが、「ここまで来たんだから、いい写真を撮らなくちゃ」って、ぐっと力を出して撮るのではなく、いい出会いが1日1個ぐらいあればいいなと。あまり欲張らない心の持ちようが、自分にとって安定している状態かもしれません。

――2025年、何かやってみたいことはありますか?

今回の展覧会の作品は1年ほどで撮ったものが多いので、もう少し深めて、高めていく活動を継続していきたいです。同じタイトルになるかどうかはわかりませんが、心安らぐだけじゃない自然風景の静けさや、自分の心に漂う静けさを、これからも写真を通して共有できたらと思います。

文・安藤菜穂子
写真・竹中あゆみ

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