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鳥を追いかけた1年。佐藤圭写真展『鳥影~北海道、野鳥たちの楽園』インタビュー

北海道の留萌市に生まれ、同地在住の佐藤圭さんの写真展『鳥影~北海道、野鳥たちの楽園』が2024年11月7日~ 11月18日まで開催されました。動物や自然を撮る写真家として活動する佐藤さんが2023年11月から1年、OM-1 MarkⅡを使って鳥だけを追い続けた写真展の内容や、展示した45点の中から撮影エピソードを伺いました。

※本記事は11月9日に開催されたトークイベントでの作品解説とインタビューをもとに構成しました。



鳥たちを育む楽園、北海道

――今回はOM-1 MarkⅡを使って1年間、鳥を撮影して展覧会を開催するという企画でしたが、どのように撮影していきましたか?

2023年11月にお話を頂き、展示する写真が0枚からのスタートでしたが、これまで撮影してきた20年の経験から、毎月どの鳥をどこで撮影するかスケジュールを立てていきました。環境の変化もあり、毎年必ず撮りたい写真が撮れるわけではないので不安もありましたが、新しいカメラのいろんな機能を使って撮影するのは楽しかったです。夏ぐらいには写真が集まってきて、手ごたえを感じていました。

――道内の様々な場所を巡って撮影されていたのでしょうか。

北海道各地で撮影しましたが、作品を選んでいく際に、自分の住んでいる地域とそこから遠くない場所で撮影した作品に絞りました。そのほうが物語が生まれると思ったからです。遠別町にいる動物写真家の師匠も「自分のフィールドを大切にして撮りなさい」という教えでした。展示作品は留萌周辺と道北各地、大雪山、そして留萌から見える天売島の写真で構成しています。

――タイトル『鳥影~北海道、野鳥たちの楽園』はどのように付けたのでしょうか。

「今日は鳥影(とりかげ)薄いね」「濃いね」って鳥を撮る人が使う、僕の好きな言葉「鳥影」と、鳥の中でも特に注目している絶滅危惧種の鷲が冬にロシアからやってくるので、鷲達、そして野鳥たちにとって楽園だと考えて付けました。北海道の冬は寒いですが、凍り付いた大地のロシアより餌が豊富なので、餌を食べて、また春に子育てのためにロシアへ帰っていくんです。


季節ごとに追いかけた鳥影

――展示順はどのように考えましたか?

入ってすぐの壁に展示したのは、シマエナガの写真です。シマリスやナキウサギなど可愛い動物も大好きでよく撮るのですが、まずお客さんの心を鷲掴みにするために(笑)、最初の写真はシマエナガにしました。シマエナガは真っ白なので、雪原をバックにするとわかりにくくなってしまいますが、うすい緑色の橋を背景にすることで際立たせています。

シマエナガ

次はクマタカです。生まれたばかりのクマタカは宝石のように綺麗なアイスブルーの目ですが、このクマタカは10年ぐらい観察をしていて、目が黄色く、おそらく15歳ぐらいだと思います。B0サイズでプリントし、迫力ある作品になりました。

クマタカ

次の壁は春に撮った鳥たちの写真です。
この写真は、春なので色のある鳥を撮ろうと、青い鳥の代表であるオオルリを北海道の桜前線と共に追いかけて撮影したもの。御衣黄(ギョイコウ)というかなり珍しいサクラですが、開花したタイミングで数秒だけ枝に止まってくれて、撮影できました。

――チョウゲンボウの写真も印象的でした。

この写真は、「生まれた家」というタイトルです。家の近くの農家の2階にある屋根裏部屋の通気口のようなところで、5年程チョウゲンボウが毎年来て子育てをしていました。

家の周りの水路に落ちたり、納屋の穴に入り込んでしまって出られなくなったりすることがよくあるので、そういうことが起きたときに助けるために、この家の周りに住んでいるカメラマンの仲間と一緒にずっと観察を続けていました。

この子たちが生まれてくるのを毎年楽しみにしていた農家のおばあちゃんが2023年に亡くなり、家を壊すと聞いたので、巣立ったばかりのこの子の目の中に生まれた家を入れて撮りました。

チョウゲンボウ

先日この場所を訪れたら更地になっていて、すごく寂しかったですね。このチョウゲンボウはもう来ないかもしれない。すごく思い出深い写真です。


天売島の鳥と海

――今回展示した作品で、特に印象に残っているのはどの作品ですか?

今回の展覧会においてひとつの柱にしようと思って撮影したのは、天売島の写真です。天売島は自宅の窓から海を挟んで見えるぐらい近い距離にあり、天売島へは、これまで何度も行っていますが、作品作りのために集中して通いました。

――鳥と海の組み合わせが素敵です。

天売島には川がなく、濁った水が流れ込まないため、「天売ブルー」と呼ばれるほど海が綺麗なんです。その美しさも表現したいと思って撮影しました。ケイマフリ、ウトウ、ウミガラス(オロロンチョウ)という3種の稀有な海鳥が天売島にやってきて、子育てをします。世界的に珍しい場所で多くの方が海鳥を見に来ています。

ウミガラス


大鷲との出会いが動物写真家の道へ

――最後の壁には鷲の写真がずらっと展示されていますね。

僕が動物を撮影し始めたのは、地元の留萌でオオワシに出会ったことがきっかけでした。当時は札幌で働いていて、地元に戻った時はサーフィンに明け暮れていたのですが、朝、海へ行くときに、電柱の上にドカンと止まっていたオオワシを見つけたんです。大人が体育座りをしているくらいの大きさで驚きました。しかも間近で見ることができて。くちばしがオレンジ色で、まるでガッチャマンみたいでした。

オオワシ

――迫力がすごそうですね。

ものすごかったですね。気になってインターネットで調べたら絶滅危惧種のオオワシだということがわかりました。世界に5,000羽もいないんです。その貴重さを別の動物で例えるなら、突然、パンダが目の前に現れたようなものでしょうか。僕の地元にもこんなにすごい鳥がいたんだと思って、注目するようになりました。

それまでは基本的にサーフィンの写真を撮っていたのですが、どんどん動物写真が楽しくなり、サーフボードは部屋の片隅に置いて、カメラに集中するようになりました。

冬の日本海は荒れるので、イルカ、アザラシ、トド、オットセイなどの海獣が荒波に揉まれて打ち上がってくるんです。ワシたちはそれを海沿いで待っているので、海鷲とも呼ばれています。 海獣が打ち上がっているのを見つけたら、凍っている砂を砕いて腰ぐらいまで穴を掘り、その怪獣の近くにテントを立て、暗いうちからテントに入って、ワシたちがやってくるのを待ちながら撮影をしています。

――展覧会を終えていかがですか?

東京には野鳥を撮る人たちが多く、野鳥好きの人たちの熱量を感じました。OM-1 MarkⅡで撮影した写真を大きくプリントして展示できたので、フルサイズに負けない画質の素晴らしさも伝えられてよかったです。2025年は、OM SYSTEMのカメラで野生動物の撮影を続けつつ、いままで撮影してきた動物たちの写真をまとめた写真集の制作を目指して行きたいと思います。


文:安藤菜穂子

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