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世界の美しさに気づけるレンズ を開発した話〜M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズ 後編

#創るをツナグ  Vol.2

どこにでも持ち歩いて撮影できるマクロレンズを目指して

実現したかったのは、野外で使える「フィールドマクロレンズ」

私たち90㎜マクロレンズ開発チームは、マクロレンズがいったいどんな使われ方をしているのか、それを確かめるためにプロ写真家の撮影現場に何度も足を運びました。そこで見えてきたのは、手持ちでマクロ撮影をするシーンが非常に多いということ。昆虫などの動く被写体を狙うときや移動中に見つけた植物の撮影では、いちいち三脚を立ててはいられません。マクロレンズには、マクロ撮影で効果的な手ぶれ補正機能と取りまわししやすい小型軽量と防塵防滴性能が必要だということに気付かされました。新しいマクロレンズは野外で扱える「フィールドマクロレンズ」でなくてはならないと感じたんです。

重くて大きいレンズは最初からNGだった

OM SYSTEMには、すでに「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」のマクロレンズがありますが、ユーザーの皆さんからは「マクロレンズのPROレンズが欲しい」という要望を多く頂いていました。PROレンズということは、高倍率のマクロ撮影と高画質を両立する必要がありました。そこで構想段階の当初は「開放値の明るい望遠系のマクロレンズにする」ということで開発をスタートさせました。この時点では、まだ焦点距離を100mmにする案もあって、90mmにすることが決まっていたわけではありません。ただ開発の初期段階から決まっていたのは、マイクロフォーサーズにふさわしい小型で軽量のレンズということ。「重くて大きいレンズはNG」でした。

レンズ設計を見直すことで画質を損なうことなく軽量化

どんなレンズにするかはサイズや重さ、開放絞り値( F値)をどうするかといったレンズの仕様を検討する必要があります。マクロレンズの場合は、倍率をどの程度にするかということも重要です。F値を小さくして、高倍率にするとそれだけ大きく重いレンズになってしまいます。
PROレンズの画質と4倍のマクロ性能を備えた望遠マクロレンズは、当初の構想では1kgを超えるような可能性もあったのですが、最終的にはF値を3.5にして、500ml のペットボトルよりも軽い453g、カメラと組み合わせても1kg程度に抑え、PROレンズとしての要件を満たす高画質なマクロレンズを実現することができました。

この大幅な軽量化には、鏡筒の一部に十分な強度のあるエンジニアリングプラスチック部品を採用したほか、部品点数を減らしたり、部品が重なる部分をできるだけ少なくするなどの工夫を重ね、レンズ設計を見直すことで実現しました。見た目は、ほかのレンズと同じように見えますが、実は中身には、多くの新しい工夫や素材を使っているんです。

レンズの構成部材を並べてみました

マクロ撮影特有の並進ぶれ(シフトぶれ)に対応した手ぶれ補正

撮影倍率が高いマクロ撮影では「並進ぶれ(シフトぶれ)」と呼ばれる上下左右に動くぶれが画質に大きく影響します。そのため、通常のレンズのぶれとは違う「並進ぶれ」を高精度で検出して補正するセンサーが必要でした。90mmマクロレンズには、新たに開発したマクロ撮影用にチューニングした手ぶれ補正を搭載しています。さらに開発チームのみんなで、マクロで撮影するときの姿勢をいろいろ試してみて、補正データのチューニングをしています。 

手ぶれ補正イメージ レンズとカメラボディーで手ぶれを強力に補正できる

せっかくマクロレンズを使うんだったら、もっと表現を楽しんで欲しい

マクロ撮影にはライティングが欠かせない

プロ写真家の撮影現場で気がついたことがもう一つありました。自然の中での撮影では、森の中など暗い環境があり、照明がないとうまく撮影できないケースが多々あります。プロの写真家は、シーンに応じてライティングを工夫して撮影しています。

マクロ撮影にはライティングが欠かせません。せっかく90mmマクロレンズを使うんだったら、ライティングの楽しさも知って欲しい。「マクロレンズを買ったのにうまく撮れない、なんか違う・・・」とは思って欲しくないのです。レンズ前に装着するマクロ撮影専用のマクロフラッシュなどもありますが、もっと手軽にライティングができないかと考えました。そこで私たち開発チームは、90mmマクロレンズの試作中にフラッシュ光を拡散させるディフューザーを作って撮ってみました。

ディフューザーを作ってみた! タイプ1

というわけで、90mmマクロレンズにピッタリなディフューザーを設計し作ってみました。タイプ1は、乳白色の梱包材を丸く切り抜いて、クリップオンフラッシュ用のディフューザーにしてみました。

ディフューザー タイプ1

キャッチライトと同様に、被写体に写り込んだ形が円形になるように丸い形にしているのがこのディフューザーのポイントです。レンズへの装着は、ステップアップリングの間に挟む方式にしたので、着脱も簡単でほかのレンズでも使用可能です。手元にあるものを素材にしたので、材料費は数百円で済みました。

ディフューザーを作ってみた! タイプ2

レンズ先端までを筒状に覆ったディフューザーも作ってみました。フラッシュ光をさらに効率よく集光することができるのが特長です。市販品にも似たような製品がありますが、メカ設計者としてはピタッと合っていないと落ち着きません。市販品では使い勝手が良くないと感じた部分もあったので、こちらはしっかり設計図を描いて作った90mmマクロレンズ専用のディフューザーです。

ディフューザー タイプ2

自分で作って使ってみたいという人のために、 A4サイズの型紙をダウンロードできるようにしていますので、ご自宅でプリントアウトしてご利用ください。 

とにかく手軽に作りたいなら、タイプ1がお勧めですが、より凝りたい方は、タイプ2にチャレンジしてみてください。

最後に、90mmマクロレンズを購入された方、これから使ってみたい方へ、開発者からのメッセージ

横山:マクロ撮影の面白さは、普段見慣れてるものがまったく違って見える驚きや感動があることです。90mmマクロレンズは等倍を超えて4倍までのマクロ撮影ができる、人の目では見ることのできない世界を捉えることができます。さらに「深度合成」などの「コンピュテーショナルフォトグラフィ」の機能にも対応しています。いろいろなものにレンズを向けて、マクロの世界で新たな発見をしてみてください。
 
弓削:90mmマクロレンズは手持ちでAF撮影ができる、コンパクトなマクロレンズに仕上がっています。マクロ撮影で効果の高い手ぶれ補正機構を備えていますから、ぜひフィールドに持ち出して使ってみてください。また、ライティングをちょっと工夫するだけで写真が劇的に変わります。紹介した手作りのディフューザーを撮影に使った様子や作品をSNSやブログなどで紹介してもらえたらうれしいです。せっかくマクロレンズを使うんですから、もっともっと表現することを楽しんでみましょう。

おまけ:手作りディフューザーの型紙と作り方

1)用意するもの
・光を拡散する素材 ※クリアファイルなど(A4以上の大きさの物、なるべく厚さのあるもの)2枚  
・光を反射する素材 ※アルミの断熱シートなど
・φ62ステップアップリング ※レンズとディフューザーの固定に使用
・面ファスナー ※FL-LM3(フラッシュ)とディフューザーの固定に使用

タイプ1 作り方
・型紙(PDF)を原寸で印刷
・型紙が原寸になってるか、寸法を確認
・貼り合わせた型紙を、光を拡散する素材に貼り付け、型紙の形状で切り抜く

タイプ2 作り方
・部品1・部品2の型紙(PDF)を原寸で印刷
・型紙が原寸になってるか、寸法を確認
・型紙を切り抜いて、部品1・部品2を貼り合わせる(のりしろ部で位置合わせ)
・貼り合わせた型紙を、光を拡散する素材に貼り付け、型紙の形状で切り抜く
・曲げる為に、カッターで折り目を入れる(深く入れすぎない様に注意)
・内側に、光を反射する素材を貼り付ける
・光を反射する素材の上に、固定用の面ファスナーを取付ける
・FL-LM3(フラッシュ)にも、固定用の面ファスナーを取付ける

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