感動したときの「あはれ」を写す。「Limelight 2023」Under30 部門 受賞作品展インタビュー
OM SYSTEM PLAZAが主催する若手写真家支援を目的とした公募展「Limelight」。39歳以下を対象にした「Under40部門」、29歳以下を対象にした「Under30部門」の2部門が設けられ、第2回は2023年9月1日~10月15日に募集されました。Under40部門はOM SYSTEM GALLERY、Under30部門はOM SYSTEM PLAZA クリエイティブウォールにて、いずれも2024年2月1日~ 2月12日に受賞作品展が行われました。
本記事では、流山、沖縄、東京などの街を歩きながら撮影した作品「あはれてん」で若手写真家支援写真展「Limelight」Under30部門を受賞した大久保卯月さんをインタビュー。2019年からアートユニットとしての活動も行うなか、写真を始めたきっかけや受賞作品、今後の活動についてお話を伺いました。
感動したときに自然に出てくる「あはれ」
――「あはれてん」というユニークなタイトルですが、どのような意味でしょうか。
タイトルの「あはれ」は、「哀れ」ではなく、感動したときに自然に発する語の意味の「あはれ」です。国語の授業では「もののあはれ」など難しい言葉で説明されますが、そういった情緒というよりも、ただ感動して「ああ」って思う感覚を、私の中で「あはれ」として撮っています。「てん」は展覧会の展ですね。「ところてん」みたいで語呂がいいので決めました(笑)。
――街を歩いていて、心が動いた瞬間を撮っているんですね。
はい、もうとにかく歩いて、そういう瞬間を撮っています。何時間もずっと同じところを歩いて撮っていると、感動して撮っているのか、撮ってから感動しているのか、わからなくなるときもあるんですよ。無意識の中でそういうことが起こるのが面白くて、そうして生まれた写真に僕の「あはれ」があるのではないかと思っています。
――撮っているのはどんな場所ですか?
大学が沖縄だったので今もよく行く沖縄や、現在住んでいる流山市、職場がある東京などで撮っています。「これを見てほしい」というよりも、その間や奥にあるものを見てほしいので、前後を想像させる余地がある写真が好きですね。
――たとえばどの写真でしょうか?
たとえばこの写真はたまたま植木鉢が倒れていたのですが、この状況を見せたいというわけではなくて。風が吹いて倒れたのかなとか、あとから誰か直すのかなとか、床屋さんに行った人はなんて思ったのかなとか、いろんなことが想像できる写真。代表している写真だなと思ったので、展覧会のDMの写真に選びました。
写真好きの人に見てもらいたい
――「Limelight」に応募したきっかけは何ですか?
流山市にある一茶双樹記念館で今回の作品を一度展示したことがあるのですが、他の場所でも個展をしてみたいと思って応募しました。俳句好きの方たちには「いいね」と言っていただけたのですが、写真としてどうなのかは全然わからなかったので、写真が好きな人たちの感想も知りたかったんです。
「Limelight」に応募したのは、OM SYSTEM PLAZAのポートフォリオレビューで「Limelight」の審査員である清水哲朗さんと田川梨絵さんに見ていただいたときに、良い反応を頂けたので応募しました。
――大久保さんはアートユニットの活動もされていますが、写真をはじめたきっかけは何ですか?
20歳の頃、大学を休学して福岡で働いていたときに、「イベントで写真撮ってよ」と言われて撮影するようになったのがきっかけです。それからまた沖縄に戻り、舞台制作に携わったり、デザインなどをしているうちにアートを作り始めたのですが、写真で作品を作るようになったのは東京で働きはじめてから。2022年に写真家の金村修さんのワークショップに通って毎週新作を作って持っていくうちに、「これは面白い」と思うようになりました。
壁の向こうに空間が広がるような展示に
――展示方法はどのように考えましたか?
今回は「あはれ」がテーマですが、プリントを額装して飾るのは「あはれ」じゃないなと思ったんです。クリエイティブウォールの白い壁を「あはれ」にしたいと思って、壁の奥にも広がりを感じさせるような空間をつくろうと思いました。一茶双樹記念館の障子がきれいだったことを思い出して、捨てられる障子をリサイクルし、マグネットを付けてフレームに見立ててみました。思った以上に空間に映えて嬉しかったです。
――どのような紙を使っていますか?
掛け軸を制作している会社にお願いして、和紙に印刷しました。だからこの写真、和室にもよく合うんですよ。写真をソフトフォーカスにしたのは、和紙に合うから。「あはれ」のテーマに合わせていくと、見せ方もどんどん固まっていきましたね。
――写真のセレクトはどのようにしましたか。
金村さんのワークショップでは、展示ではプリントを飾るのだから、データではなく印刷して「物」として見ることが大切だと教えていただきました。それらを並べて、あり、なし、あり、なしとただ分けていくんです。選ぶときや並べるときは、言葉ではなく感覚で。今回も同じようにセレクトしていきました。
記録ではなく、記憶の媒体としての写真
――展示してみていかがでしたでしょうか。
やっぱり人に見てもらえるのが嬉しいですね。ずっと現代アートをやってきてカメラには詳しくないため、カメラ好きの方がいらして、いろいろ教えてもらえたのもよかったです。こういうこともできるかもと、どんどん違う引き出しができました。そういう出会いがあるところも、展示の良さですね。
――今回の展示を経て、今後やってみたいことがあれば教えてください。
写真は記録ですが、撮影者の僕の中にはその前後があって、記憶の中にもっと広がりがある。だから、記憶として写真を扱うということをやってみたいと思っています。写真を物体としてアプローチし、記憶の媒体になるような作品を1年かけて作れたらと、試行錯誤して実験しているところです。
文・安藤菜穂子
写真・竹中あゆみ
■一緒に読みたい note