「コロナ禍からの脱却」をテーマに写した110人のポートレート。「Limelight2023」Under40 部門 受賞作品展インタビューと選出理由
OM SYSTEM PLAZAが主催する若手写真家支援を目的とした公募展「Limelight」。39歳以下を対象にした「Under40部門」、29歳以下を対象にした「Under30部門」の2部門が設けられ、第2回は2023年9月1日~10月15日に募集されました。Under40部門はOM SYSTEM GALLERY、Under30部門はOM SYSTEM PLAZA クリエイティブウォールにて、いずれも2024年2月1日~ 2月12日に受賞作品展が行われました。
本記事では、第2回「Limelight」Under40部門グランブリを受賞した鈴木拓哉さんをインタビュー。「コロナ禍からの脱却」をテーマに、2023年6月から12月まで110人のポートレートを撮影した受賞作「未来で会いましょう」について伺いました。
SNSで繋がり、半年間で撮影した110人
――マスクを外す途中を写したポートレートがずらりと並ぶ圧巻の展示ですが、本作品のアイディアはどのように生まれたのでしょうか。
2023年は、今この瞬間や時代を伝えられるポートレートを撮りたいと思って活動していたのですが、25名ほど撮り終えて人に見せたときに、「伝わってこないね」と言われたんです。それは自分でも実感していたことで、何かが足りないと思っていました。その日は翌朝まで、今ってどんな時代だろう?と考えこんでしまいましたね。
――その時はまだ、普通のポートレートを撮影していたんですね。
そうなんです。2023年5月にコロナが5類となり、マスクをつけている写真は違うなと思っていました。でも外した写真だと普通だから、マスクを外す途中の写真はどうだろう?と思いついたんです。次の日から、撮影の約束をしていた方にマスクを持ってきてくださいとお願いして、撮りはじめました。
――はじめて撮影したときは、ピンときましたか?
自己流の表現ですが、右脳と左脳がわからなくなる感じがしました。目の前で起きていることはわかるのですが、理解が追いつかない感じというか。でも撮った写真を見たときに、これを同じ画角で撮影していったらよいのではと思って始めました。
――まっすぐな視線が印象的ですが、被写体の方に指示はされていますか?
カメラ目線で無表情、顎を引いてください、とだけ伝えています。その人の内側を見せてほしいので、笑顔は違うと思ってそれだけお願いしました。最初に25名撮影したときに、1000枚に1枚くらい「無意識の扉が開いた」というか、被写体の目に「通路」のようなものを感じる写真があったんですよ。その時の感覚がこの作品に残っています。
――半年間で110人撮影するのは大変だったと思いますが、被写体の方たちとはどのように出会ったのでしょうか。
InstagramのDMで繋がりました。私もモデルの方たちもそれぞれの仕事や日常がある中、日程や時間を合わせるのは大変でしたが、海外から日本に帰国中だったり、地方に住んでいて東京に来ているタイミングだったり、たまたま予定が合う方たちもいました。大切にしたい縁を感じましたね。
撮影地は全て違う東京の路地裏
――撮影場所はどのように選びましたか?
私も被写体の方も初めて行く場所を選んでいて、ロケハンは一切ありません。初めて会った方と初めて行った場所で撮るという緊張感と、どんな道に出会うかわからないスリルのようなものを感じながら撮影していました。ほぼ全員、違う駅で撮影しているんですよ。道行く人などは入れたくなかったので、細い道や路地裏を歩いていきました。
――東京の今も写し出されていますね。撮影場所を見つけるのに苦労はしませんでしたか?
駅を降りてなんとなく見渡して歩きはじめると、あるんですよ。いい路地が。ちょっと木が見えたり、錆びたフェンスが見えたり、「何か良さそう」という“匂い”を辿っていくんです。もちろん外れるときもありますけどね。なんでもない場所ですが、たまたま光が差し込むことで観光スポットより絵になることがあります。
自分も行ったことがない場所というのはモデルの方にも伝えているので、一緒に作り上げているような雰囲気がありました。中盤から後半ぐらいの、打ち解けあい始めたぐらいのときに当たり写真が多いんです。でも緊張感は絶対必要だと思っています。
――彩度が低い写真の色が特徴的ですが、どうしてこのような色にしたのですか?
以前、誰が写っているかわからないくらい色あせて古びた写真を見たときに、時代を越えて今自分が見ている、この状況が「写真だな」と思ったことがありました。そんな風に100年後、200年後の未来の人になった気持ちで見てほしかったので、時間が降り積もったような色褪せた加工にしました。それに、コロナのパンデミックは間違いなく世界の歴史に残る出来事だと思うのですが、その壮絶さも表現したかったからです。
アクシデントが受賞のきっかけに
――鈴木さんが写真を始めたのはいつでしょうか。
大学では映像を学んでいました。卒業制作は自主映画を撮ったのですが、卒業後に2作目を作ろうと思っても、うまくいかなかったんです。周りの環境ありきだったことに気づいたというか、社会に出て1人になったとき、自分は何もできないと感じました。たまたまスチールの広告撮影の仕事をすることになって、写真を始めたんです。
――「Limelight」に応募しようと思ったのはなぜですか?
それまで風景やスナップを撮ってコンペにたくさん応募していたのですが、全然通らなくて。写真賞がなくなったり、年齢制限も過ぎたりして、もう無理かもしれないと思っていたのですが、2022年にパンデミックを表現した写真を撮ってコンペに応募すると、単写真や組み写真でいろんな賞を頂くようになってきました。
結果が出てきたので2023年はテーマを決めて枚数が撮れる作品をつくり、個展を開催したり、写真集をつくったりしたいと思っていたところ、締め切り10日前に「Limelight」を見つけたんです。応募枚数の40枚までというのは私にとってちょうど良い点数でした。
――ギリギリ応募できたんですね。
でも実は締め切りの3日前になって、応募するプリントを電車に置き忘れてしまったんです(笑)。縁がなかったと諦めかけたのですが、もしかすると一人ひとりとちゃんと向き合ってなかったのかもしれないと思いなおすきっかけになって。この写真が未来まで残ってくれないかな、などと考えながらもう一度写真と向き合ってみたら、先ほどお話したような色が生まれたんです。それまで無加工だったんですよ。
それに最初はマスクを外す途中の写真と手のアップや後ろ姿などを組み合わせて、20名40枚の作品で応募しようと思っていたのですが、やはりマスクの写真だけで40枚、タイトルは「未来で会いましょう」にしようと。それで運よくグランプリを頂くことができたんです。ちなみに電車に置き忘れた写真は翌日見つかって、取りに行きました(笑)。
――思わぬアクシデントにより、作品と最後まで向き合うことができたんですね。駆け抜けた2023年が終わり、展示が完成していかがですか?
よくやったと思いました。逃げなかったなと。2023年に撮らなければ意味がない作品だと思っていたので、自分で期限を決めていたことも良かったです。初日に来た方が自分の言葉で写真の感想を紡ごうとしている横顔を見て、泣きそうになってしまいました。写真を見て「混乱した」と言ってくださった方がいたのですが、ずっと「混乱させたい」と思っていたので、嬉しかったですね。これからもそんな作品を撮っていきたいです。
審査員の選出理由 ~トークショーより~
2月3日(土)にギャラリー内にて開催された写真展作品解説のスペシャルゲストに、「Limelight 2023」審査員の写真家の清水哲朗さんと田川梨絵さんが登場。鈴木さんの作品を選んだ理由などをお話いただきました。抜粋してお二人のコメントをご紹介します。
■清水哲朗 グランプリ選出理由
応募されたポートフォリオをめくるごとに現れる、一人ひとりの表情やマスクを取る仕草から強いメッセージが感じられました。2023年という応募のタイミングもよく、今発表すべき作品、時代性がマッチしているという点でずば抜けていたと思います。被写体の方たちはどのようなコロナ禍を過ごしていたんだろうと、紐解いていきたくなる作品でした。また近づきたくても近づけなかったコロナ禍の人との距離感が写真の距離感にも表れ、今回のコンセプトにあっていたのが良かったです。カラーとモノトーンをミックスして違和感を持たせた色調も面白かったですね。コロナ禍の記録であり、作家としての底力も感じられる素晴らしい作品なので、ぜひ写真集にまとめて残してほしいです。
■田川梨絵 グランプリ選出理由
量が圧巻でした。これが15枚程度だったら選んでいなかったと思います。撮影を行うには被写体の方と連絡を取り合って撮影日を合わせたり、場所を決めたりする実作業も必要ですが、これだけの方とやり取りを行って撮り続けたところに、真摯に作品と向き合う鈴木さんのすごさを感じました。また被写体の表情も選んだ理由のひとつです。「可愛く撮られたい」というモデルさんの我が出ていたら、また違った作品に見えていたかもしれません。被写体の表情から鈴木さんの意思が見えてきたのが、良かったと思いました。そして、マスクを外す途中の仕草と同様に、周りに誰もいない環境の異様さもコロナ禍を現わしているようで、よりこの作品を面白くしていると感じました。
文・安藤菜穂子
写真・竹中あゆみ
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