星から教えてもらったこと。飯島裕写真展「星に識る」インタビュー
星景写真や天体写真などを長年撮影し続けてきた飯島裕さんによる写真展「星に識る」が7月25日(木) ~ 8月5日(月)に開催されました。星や宇宙にまつわるさまざまな景色を撮影してきた飯島さんに、星を眺め、星について知ることの面白さについて伺いました。
星がある空間に魅せられて
――今回の展示作品について教えてください。
星を眺めるのが好きでいろんなところへ見に行くのですが、そこで出会った景色を写した写真です。惑星や彗星のある景色、天の川や星雲などの天体の姿、流星群などの天文現象、人の知識欲や好奇心を感じる天文台や電波望遠鏡のある風景、地球で生きる我々にとって関わりの大きい気象現象、宇宙の中で生きていることを実感する場面などさまざまです。
今回は2010年頃から現在までに撮影したものをセレクトし、ほぼ時系列に展示しました。星の撮影はカメラやレンズの性能が大きく作用するので、カメラの進化もわかるんですよ。ライブコンポジットなどの機能を活かした撮影や、手ぶれ補正機構が優秀になって可能になった手持ち撮影など、だんだんできることが増えていきましたね。
――星や宇宙に興味を持ち始めたのはいつからですか。
子どもの頃からです。初めて天体望遠鏡をのぞいたのは小学校5年生の頃でした。ちょうどアポロ11号が月面着陸したときです。宇宙のことが好きな学校の先生が、「いまアポロの宇宙飛行士がいる月を見てみよう」と、学校の屋上で望遠鏡をのぞかせてくれたんですよ。小さな望遠鏡でしたがクレーターが見えて、「あそこに人がいるのか、すごいな」と思ったことが印象に残っています。
――星を撮影しはじめたのはいつ頃でしょうか。
中学生のころに父親のカメラを借りて撮影したのが始まりですね。カメラって光を留められるので、目には見えない天体の姿や星の光跡が残せるでしょう。それが面白かったんです。当時はフィルムの時代。近所の写真屋さんでは増感現像ができず、2軒先の同い年のいとこと一緒に自分たちで現像していました。そうしているうちに写真自体が面白くなって、写真が生業になったんです。
最初は天体そのものの写真を撮りたかったのですが、いろんな場所へ行くうちに、星空のある空間が心地よく感じるようになり、その空間を撮ることが面白いと思うようになりました。
星を撮って宇宙を識る
――「星に識る」というタイトルについて教えてください。
たとえば、天の川銀河は凸レンズ状の円盤になっていて中心付近が膨らんでいることは理科の授業でも習いますが、知識として知っていても実感することはできません。でもこうしてオーストラリアに行って魚眼レンズで撮影してみると、地球にいる自分たちもこの天の川の円盤の中にいることが感じられるんです。そんな風に、星を見ることでいろんなことに気付かされ、教えてもらったがたくさんあります。「星を見て知ったこと」、そんな意味合いでつけました。
日々星を見ていると、月や惑星が空を移動する様子が分かり、自分と惑星が3次元の空間で回っていること、自分がいま、宇宙空間に対してどういう位置にいるのか分かってくるんです。
それから、東京から福島や青森へ行くと、緯度が変わるので北極星の位置も変わります。肉眼では気づかないくらいですが、望遠鏡をセットすると少し移動しただけでも高さが変わるのが分かりますよ。それで地球が丸いことを実感します。
他にも、恒星はこの「バラ星雲」のようなガス星雲の中で生まれ、核融合反応で光りながら、内部で酸素や炭素、鉄などの元素が作られていきます。そして、その一生を終えるとき爆発するのですが、その爆発で散らばった元素が集まって再び星になり、地球のような惑星も作られました。つまり、惑星にある元素は、みんな星の中で生まれたものなんです。地球上のものはすべて、自分の体も、かつて星の中で光ったことがあるものなんですよ。
こういった話は、星に興味がなかったら知らなかったこと。宇宙を知ることは、自分自身を知ることにつながることが多いと思います。
星が自分の位置を教えてくれる
――遠くの星と自分が、実はつながっているというのが不思議です。
大昔、宇宙の中心は地球で、太陽も惑星も全部地球を中心に回っていると考えられていましたが、実際は太陽が中心で、地球の方が回っていることが分かりましたよね。宇宙の中心にいると思っていたのに、実際は銀河系の端っこの方の平凡な場所に位置することが分かったわけです。
また天文学者たちは、宇宙には星がたくさんあることを知っているから、当然、宇宙人もたくさんいるだろうと考えている人が多い。宇宙にも同じような、知的生命を持つ生き物がいても全然不思議ではありません。
最近よく思うのは、戦争などの争いや、学校でのいじめなどは、たぶん自分中心の狭い考え方だから起きること。みんなが星を見て感じて、自分の居場所を俯瞰的にとらえることができるようになれば、人類はもっと平和になると思うんです。宇宙を知ることは、その視点を変える訓練をしているような気もします。
いろいろな知識と実際に見る空がつながると、リアルに感じられる面白さがあります。単に見てきれいと思うのは、星を眺めたり撮影したりすることの最初の動機ですが、知れば知るほど面白くて、深いんです。
自然現象と星
――星の写真と言えば晴天のイメージでしたが、霧がかった風景の写真も印象的でした。
宇宙空間に水はないので、こういった霧の向こうに星がぼんやり見えている風景を見ると、自分がいる地球には水があるということを思うんです。また、雲にまかれて風が吹く夜に山の中にいると、湿った空気が木の枝にあたって夜露となり、雨が降っていないのにぽたぽた地面に落ちる音がして、大気の循環を感じることもあります。だから僕は晴れてない夜の日も好きですね。
――雷の写真も迫力がありました。
この写真は、伊豆半島の山の中で撮影しました。雷雲が1箇所に湧いて、一晩中ピカピカしていました。雷の前を飛行機が行き交っていましたが、飛行機の中から見たらすごかったでしょうね。雷がいくつも連続していたのを、ライブコンポジットで10分ほど撮影していたので、その間に光った雷が写っています。
――ありがとうございます。では最後に今後の活動について教えてください。
基本的にはデジタルで撮影していますが、雑誌でフィルム写真の連載も行っています。タイトルは「銀ノ星」。いまだに印画紙で入稿しているのですが、フィルムで撮った写真は宇宙から来た光がフィルムに感光して、銀の粒になり、物質化するところが面白いと思うんです。デジタルはよく写りますが、フィルムで写した写真は目で見た星の景色に近い。フィルムとデジタル、それぞれの味わいを楽しみながら、これからも気の向くままに星の風景を撮っていきたいですね。
文:安藤菜穂子
写真:竹中あゆみ